ステージの幕は降ろされ、客席は明るくなる。観客はみな出口に向かって歩き始める。その中に敦賀さんと私もいる。
「意外と見つからないもんだよ?」と某大御所アーティストのライブチケットを手に誘ってくださった敦賀さん。私は喜んで付いてきた。敦賀さんはブルゾンの下にネルシャツにジーンズ、ミッドカットのスニーカーと、敦賀さんからは想像が難しいラフな格好に黒渕の眼鏡をかけ、帽子を目深に被っている。布地で出来たメッセンジャーバッグを斜めにかけている。敦賀さんにはあり得ないカジュアルブランドのそれもなぜかしっくり馴染んでいるのが不思議なほどだ。私はそれでなくても芸能人だなんて思われる心配もないから、お気に入りのワンピースにニットのカーディガンを着て薄手のコート羽織ってきた。
会場ではライブ中はずっと総立ちで、みんなステージしか見ていない。手を叩き、一緒に歌って踊って、楽しい時間を過ごした。
私達も席を立ち、敦賀さんの後ろをついて歩いていたけど、人混みでははぐれそうになってしまう。敦賀さんと私の間に知らない人が何人か挟まって、敦賀さんとの距離ができてしまう。周りの人より頭ひとつ分背が高い敦賀さんを見失う事はないけど、その距離を詰めることが出来なくて、私ははぐれてしまう、置いていかれると気持ちばかりが焦り出す。そんな怖さに足がすくんでしまった。その瞬間に見失うはずのない背中すら見失ってしまった。
怖い!
次の瞬間、左手を掴まれたかと思ったら強い力で手を引かれた。
「きゃっ!」と小さな悲鳴をあげてしまったけれど、誰かにぶつかってしまった感覚に咄嗟に「ごめんなさい!」と謝る。すると、聞きたかった声が降りてきた。
「最上さん、こっちだよ?」
敦賀さんはそのまま私の手をひいて歩き始める。離れかけた指をもう一度繋ぎ直して私のペースに合わせて歩いてくれる。
「はぐれちゃったらダメだからね?」
振り返ってそういう敦賀さんの顔はとても優しい。私の心臓が大きく跳ねた。
「ずるい…」
私は俯いてつい小さく呟いてしまった。
「えっ?」と聞き返す敦賀さんに、精一杯平静を装って「ありがとうございます」とにっこり笑って見せた。
敦賀さんは一瞬目を見開いて固まったけれど、神々しい笑顔を浮かべると、繋いだままの手を自分のブルゾンのポケットに入れてしまった。
この温もりと距離はまだ夢の中ですか?
「意外と見つからないもんだよ?」と某大御所アーティストのライブチケットを手に誘ってくださった敦賀さん。私は喜んで付いてきた。敦賀さんはブルゾンの下にネルシャツにジーンズ、ミッドカットのスニーカーと、敦賀さんからは想像が難しいラフな格好に黒渕の眼鏡をかけ、帽子を目深に被っている。布地で出来たメッセンジャーバッグを斜めにかけている。敦賀さんにはあり得ないカジュアルブランドのそれもなぜかしっくり馴染んでいるのが不思議なほどだ。私はそれでなくても芸能人だなんて思われる心配もないから、お気に入りのワンピースにニットのカーディガンを着て薄手のコート羽織ってきた。
会場ではライブ中はずっと総立ちで、みんなステージしか見ていない。手を叩き、一緒に歌って踊って、楽しい時間を過ごした。
私達も席を立ち、敦賀さんの後ろをついて歩いていたけど、人混みでははぐれそうになってしまう。敦賀さんと私の間に知らない人が何人か挟まって、敦賀さんとの距離ができてしまう。周りの人より頭ひとつ分背が高い敦賀さんを見失う事はないけど、その距離を詰めることが出来なくて、私ははぐれてしまう、置いていかれると気持ちばかりが焦り出す。そんな怖さに足がすくんでしまった。その瞬間に見失うはずのない背中すら見失ってしまった。
怖い!
次の瞬間、左手を掴まれたかと思ったら強い力で手を引かれた。
「きゃっ!」と小さな悲鳴をあげてしまったけれど、誰かにぶつかってしまった感覚に咄嗟に「ごめんなさい!」と謝る。すると、聞きたかった声が降りてきた。
「最上さん、こっちだよ?」
敦賀さんはそのまま私の手をひいて歩き始める。離れかけた指をもう一度繋ぎ直して私のペースに合わせて歩いてくれる。
「はぐれちゃったらダメだからね?」
振り返ってそういう敦賀さんの顔はとても優しい。私の心臓が大きく跳ねた。
「ずるい…」
私は俯いてつい小さく呟いてしまった。
「えっ?」と聞き返す敦賀さんに、精一杯平静を装って「ありがとうございます」とにっこり笑って見せた。
敦賀さんは一瞬目を見開いて固まったけれど、神々しい笑顔を浮かべると、繋いだままの手を自分のブルゾンのポケットに入れてしまった。
この温もりと距離はまだ夢の中ですか?