俺達はパーティー会場の入口の扉の前に立って案内係の合図を待つ。俺の左腕に回された最上さんの手は微かに震えている。
案内係の合図で会場の扉はゆっくりと開かれて、スポットライトが俺達を照らし出す。
最上さんを見れば戸惑いと躊躇いの表情が見てとれる。そのために一歩が踏み出せずにいる。俺は柔らかい笑顔で「行こうか。」と囁く。彼女はその不安げな表情のまま俺を見上げていた。俺がパーティー会場の中央で彼女の為に備えられた席へと視線を移すと彼女もそちらの目を向けた。俺は彼女へと視線を戻す。彼女は目をつむると小さく息を吸い込み、フッと息を吐いて目を開けた。そして俺に視線を合わせて凛とした笑顔を作って「はい」と答えた。
俺はまた一つ彼女が大人になる瞬間を目の当たりにした。君はそうやってどんどん大人になっていくんだね。どんどん綺麗になって、どんどん磨かれて、あっという間に俺の手の届かない所に俺を置いて登って行ってしまうのかい?
そんなそこはかとない不安と焦りを感じてしまう。
俺は心の底の方から湧いてくる焦りと不安を笑顔の下に押し込めて彼女に柔らかく笑ってみせた。そして、一歩を踏み出した。

会場には割れんばかりの拍手と誕生日を祝う音楽。あちらこちらから「おめでとう!」の声。そこにいる者全員が最上さんを見ている。最上さんははにかみながら、目に喜びの涙をいっぱい讃え、「ありがとうございます!」と何度も何度もお辞儀をしながら進む。そして俺のエスコートで中央の席に着くと俺は彼女を座らせて少し離れた位置に立った。すると、ろうそくが20本立てられたホールケーキが運ばれてきた。真っ暗になった会場でろうそくの炎が揺れる。

会場にいる全員が伴奏に併せて歌う。
♪バッピーバースデー ディア 京子ちゃぁん、バッピーバースデートゥー ユー♪

最上さんは一気にろうそくの火を消し、会場は真っ暗に。一気に照明が付けられ、クラッカーの弾ける音、拍手、声援で会場は一気に盛り上がった。

抱えきれないほどたくさんの花束に埋もれそうになりながら、彼女は顔をぐしゃぐしゃにして泣きながら喜んでいる。
持ちきれない花束やプレゼントを受け取って整理している雨宮さん、泣きつく最上さんを受け止めながら勝ち誇った顔で俺に流し目をくれる琴南さん。そんな中ではしゃぐマリアちゃん…。そして彼女を囲むたくさんの人々…。俺の中で何かが堰を切って溢れ出した。