パーティー会場を出て社さんに指定された部屋の扉をノックすると、ミスウッズがピョコンと顔をだした。
「蓮ちゃん、改心の出来よっ!」
「えっ?」
「さぁ、入ってきてお姫様の姿を見てちょうだいっ!」
そういうと俺の上着の裾を引っ張って部屋に入れ、扉をしめた。
中に入ると木製の椅子に鏡に向かって座っているお姫様がいる。淡い水色のドレスは少しだけ大人の雰囲気を表している。俺に気づいてこちらに向き直り、柔らかく微笑む姿は本当にお姫様だ。
「……。」
俺はその美しい姿に言葉を失って立ち尽くす。
「…、つる、が、さ…ん?」
首を傾げて上目遣いに見上げてくるその表情は反則だろう。俺は息をする事さえ忘れていた。

「あの、敦賀…さん?」
「…、あぁ、準備…できたんだ。」
「はい、あの、やっぱり変ですか?こんな大人っぽいドレス、私にはまだ早いですよね?」
「いや、…綺麗だ。凄く似合ってる。」
「あ、ありがとうございます。このイヤリング、ミスウッズに見せたら『絶対に似合うから着けて!』って言われたので図々しくも早速使わせていただきました。」
「うん、よく似合うよ、ありがとう。」
彼女の可愛らしい耳に煌めきを添えるのは、俺がさっき誕生日プレゼントに送った天使の羽をモチーフにしたイヤリング。18金を土台にプラチナの羽がふんわりと広がっている。サイズが小さいので彼女の動きにあわせて揺れるそれが自己主張しすぎる事はない。
「蓮ちゃんったらキョーコちゃんが気に入りそうなアクセサリー、上手くみつけちゃったわね。しかも今日のドレスにぴったりよ。」とミスウッズが肘で俺の脇腹をつつく。俺はまた苦笑するしかなくて視線を泳がせてしまった。

「さ、会場で皆さんがお待ちよ。主役はピシッとして頂戴。蓮ちゃん、お姫様のエスコートよろしくね!」とミスウッズは俺の背中を軽く叩いて控室の扉をあけた。
俺は最上さんに右手を差し出す。最上さんはそっと手を重ねる。俺は彼女を立ち上がらせて、掴んでいた彼女の右手を自分の左腕に回させる。彼女は驚いて俺を見上げて目を見開いたが、柔らかく微笑みかける俺に微笑み返して、直ぐに顔を赤くして俯いてしまった。その事を残念に思っていたら、俺の上着の裾を掴んでいた彼女の手に力が込めらた感覚が伝わってきた。俺はその感覚に嬉しくなって右手でその手を包むように重ねた。
俺達は開かれた扉を潜ってパーティー会場へと向かって歩きだした。