「君も今日から大人の仲間入りだね。さぁ、乾杯しようよ?」
「えっ?、あ、はい。ありがとうございます。」
「「乾杯」」

「今年も君の誕生日を一番最初に祝えた事と、君が初めてお酒を飲む瞬間、一緒にいられた事をとても嬉しく思うよ。俺には最高のクリスマスプレゼントだ。」

最上さんは顔を赤らめて俯いてしまった。シャンパングラスの中で小さな泡が弾けるのをじっと見つめている。こんな姿も可愛いなぁ。

「それ、誕生日プレゼント。きっと似合うと思うよ。」
「えっ、あ、はいっ!ありがとうございます!!

そこに琴南さんが般若の形相で現れた。

「敦賀さん!そろそろこの子を独占するの辞めてもらえませんか!」
「…、いや、俺は…」
「モー子さん!」
「ほら、あんたあっちで呼ばれてるわよ。」
琴南さんの視線をたどればにこやかに手を振るミスウッズがいた。

「あぁ…」
俺は最上さんの手からシャンパングラスを取り上げてミスウッズのところにエスコートする。

「蓮ちゃん、間に合ったのね。キョーコちゃんは預かるわ。楽しみにしていて?」
ウインクと共にそう告げるとミスウッズは最上さんを会場から連れ出してしまった。
彼女が居なくなった会場はどことなく寂しくて色褪せて見える。俺もかなり重症だと改めて自覚する。さっきまでいたテーブルに戻ると琴南さんに声をかけられた。
「そんな顔してると『敦賀蓮」のイメージが台無しになりますよ?」
俺は苦笑するしかできずに、最上さんが取り分けてくれた料理を口に運ぶ。琴南さんはクスッと笑うと軽く挨拶をして綺麗な黒髪を揺らして去っていった。俺はテーブルに一人取り残されてぼんやりしていた。それに気付いた女優が何人か近づいてくる。煩わしいと思いながらも『敦賀蓮』を演じているとと社さんがスッと横に立ち「蓮、出番だぞ。」と声をかける。「えっ?」と顔を向けた俺に「向こうの出入口から出て前にある控室に行け。お姫様がナイトを待っているそうだ。」と俺にだけ聞こえる程度の声量で告げる。そして集まっていた女性陣にむけて「すいません。敦賀は今から少し仕事をしに出ます。通していただけますか?」と人の良さそうな、それでいて威圧感のある顔と声で告げる。すると、まるでモーゼが海を割った時のようにスッと道が開かれて、俺は軽く会釈をしながら会場を後にした。