俺達が会場の端の方にあるテーブルに取り分けた料理を持ってむかうと後ろから社さんがやってきた。

「やぁ、キョーコちゃん、今年も盛大だね?」
「あ、社さんありがとうございます。」
「そのコック姿も板についてるし。」
「えへへ、なんだかくすぐったいです。」
そういうとはにかんで頬をうっすら赤く染めるその顔に俺はノックアウト寸前だ。社さんも彼女の表情に顔を赤くする。
面白くない。そう思った瞬間、社さんがハッとして俺をみた。その顔は青ざめていて、目は泳いでいる。

「俺から視線を外した先に、先程俺達が取り分けてきた料理の皿が入ったらしい。
「き、キョーコちゃん!俺も一皿貰っていいかな?」
慌てて最上さんに言い募ると、綺麗に盛り付けられた皿を一つ手にとって、「俺、社長に呼ばれてるからいくね?」と逃げるように去っていった。

「社さん、こんな時まで大変ですね?」
「そうだね、いつも感謝しているよ。」
「そうですね、敦賀さんのマネージャーは社さんしかあり得ませんもの!」
「そうだね。でも、たまにはまた代マネしてくれたら嬉しいな?」
「機会があれば。さぁ、食べましょう?」

最上さんの料理はやはり美味しくて、他愛もない会話も弾む。コロコロと変わる彼女の表情はいくら見ていても飽きないだろうと思えるほど輝いている。この瞬間、この広い場所で彼女を独占できている事に至福の喜びを感じる。

俺は出来るだけ彼女の傍に立てるように二人の立ち位置を画策していた。二人が並んでテーブルに立っても可笑しくないように、取ってきた料理の皿をテーブルの奥半分くらいに並べて、それぞれの取り皿を並べて置いた。ホールスタッフから受け取った飲み物も並べて置くと自然と最上さんの隣を確保出来た。そして、ポケットから小さな包みを掴んで、その手をそのままテーブルに置いた。手中にある包みが彼女に見えないように配慮して。
パーティー会場の大きな時計が午前零時を告げる。俺は包みを隠した手をすっと彼女の前に伸ばす。彼女は「えっ?」といった表情で俺を見上げた。俺は彼女の視線にまっすぐに視線にを合わせて柔らかく微笑む。
「お誕生日おめでとう。」
そう告げると手を開く。テーブルには小さな包みが残っている。
「うわぁ、ありがとうございますっ!」
彼女の頬に朱がさす。俺は通りがかったスタッフからシャンパングラスを二つ受けとると一つを彼女に差し出した。