私は、暫くの間頭の中で妄想に励んでいたと思われる。

「お願い…が、あるん、だけど…」
と敦賀さんの声で我に返った。
「はい?なんですか?」
「手を…」
点滴の入っていない右手をすっと差し出して私に何かを言おうとする敦賀さん。私はその手をそっと取ると「夜は冷えますからね。」と優しく毛布の中に戻そうとした。すると敦賀さんは私のの手を握って告げた。
「手を、握ってて、くれないか…?」
「敦賀さん、なんだか子供みたい」
頭の浮かんだ事がそのまま言葉に出てしまった。本当に可愛いと思ってしまった。何となくくすぐったくてクスクスと笑いが漏れる。私は握られた敦賀さんの手をほどいてベッドに戻すと彼の傍を離れた。背中に彼のがっかりしたような小さなため息が聞こえる。私は椅子を持って敦賀さんの傍に座り、その大きな手を両手で包み込んだ。
「えっ」と敦賀さんが驚いて私を見る。
「だって、中腰のままじゃずっと握っていられないじゃないですか。」といいながら、なんとなく気恥ずかしくてそっぽを向いた。なんだか顔が凄く熱い。
「ありがとう、うれしいよ。」
その言葉を最後に敦賀さんはまた眠りについた。規則正しい寝息に私も少し安心した。すると私にもどうにも抗えそうもない睡魔が襲ってきた。そして敦賀さんの手の温もりを感じながら意識を手放した。

優しく頭を撫でられる感触にゆっくりと意識が浮上していく。重い瞼を持ち上げるとそこには敦賀さんの顔があって、神々スマイルで私をみていた。
「ありがとう、キョーコちゃん」
その言葉は私の心にすんなり入って来て、わたしに笑顔をくれた。

また体調を崩した時はいつでもお傍に来ますから。それは言葉にはしなかったけれど本当にそうしたいと思う。そして、たまには敦賀さんに病気に負けてもらうのも悪くないと思った事は絶対に秘密。

End