さっき名前を呼ばれたのは多分麻酔が醒めた直後だったのだろう。少し朦朧とした頭で現状を必死に把握して、社さんの勢いに押されてしまった。左手に点滴、右手に血圧計、胸には心電図、両足には血栓予防だというエアポンプがつけられている。なんだか凄く寒い。こんなに寒さに震えるのはいつ以来だろうか…。
「敦賀さん、寒いですか?」と可愛らしい声がするが震えて上手く返事が出来ない。
「電気毛布の温度を上げますから、暑くなったら言ってくださいね?」と言われて何とか頷いた…はずだ。そこからふっと意識が飛んだ。次に目覚めたのは腹部の強烈な痛みのためだ。
違和感で目が醒めて、次に来た腹部の痛みで顔をしかめた。「…クッ」と小さく呻いてしまったので最上さんにも気付かれてしまった。
「痛みますか?」と聞かれれば首を縦にふるしかなくて、最上さんがすっとナースコールを取り上げてコールしてくれる。「すいません。痛みがきついようなのでお願いします。」
程なく看護師さんが入って来て点滴に痛み止めのボトルを足した。
「すぐに楽になりますよ。次は六時間以上後じゃないと使えませんからね。」と説明してくれた。最上さんは部屋を出る看護師さんに深く頭を下げて「ありがとうございます」と言っていた。
「少し水分取りますか?」と言われて頷くと口にストローを差し込まれた。ゆっくり吸いあげるとひんやり冷たいそれは口当たりがよく、少し甘味があってすっと喉を通っていった。
「ありがとう」というのがやっとだったが、最上さんはにっこり笑って「遠慮しないで何でも言ってくださいね。」といってくれた。今、この両手が自由なら思いっきり抱き締めてこの腕に閉じ込めたいのにままならないのがとても悔しい。
しかし、その後また俺は眠ってしまったようだ。そしてまた腹部の痛みで目を覚ます。
「…くっ」
「敦賀さん、痛いんですね。ん~、困ったな。まだ痛み止め使えるまで二時間はあるわ。」
「ありがとう、大丈夫、我慢できるから。」
「はい、でも…」
「どうしたの?」
「何か出来る事はないですか?」
「さっきのお水を」
「はい、どうぞ。」
すっとストローを差し込んでくれる。
「これ、美味しいよ。」
「ありがとうございます。」
「もう遅い時間だろう?帰らなくていいのかい?」
「今夜はここでお泊まりです。社長の許可もいただきましたし、大将と女将さんにも連絡済みです。」
そこで俺はまた眠りに落ちた。