撮影中****

まゆみは養父に呼ばれて他の招待客のところに挨拶回りの為に席を立った。みのるはひとみの指摘が厳しくて飲み物を取りに行くと逃げていってしまった。テーブルにはひとみと上野。なんとなく他愛ない会話に変わる。
「なんだ、二人とも行っちゃった。」
「まぁ、仕方ないよ。まゆみちゃんはホスト側だしみのるは元々人見知り激しいから。」
「そうなんだ。上野くんは人見知りしないの?」
「俺はそんな勿体無いことはしないよ。」
人見知りが勿体無いと言い切る上野にひとみはにっこり笑って見せた。
「上野くんって面白い人ね?」と呟いて、手に持っていた飲み物を一口飲む。
「私、面白い人は大好きよ。」と言って飲みかけのグラスを上野の方に持ち上げる。
「気に入ってもらえて光栄だな。」と答えると、上野も持っていたグラスを持ち上げ、ひとみのそれに軽く当てる。
グラスの触れる小さな音がして、二人はそれぞれグラスの中身を一口飲む。グラスをテーブルに置くと二人の視線が絡まり合う。
「ふふっ、今日は来て正解だったわ。まゆみにも久しぶりに会えたし…」
「俺も来てよかったよ。親の付き合いみたいなもんだったんだけど…」
二人、テーブルを挟んで楽しそうに笑い合う。
ひとみは上野からみのるの人見知りっぷりと可愛げのあるところ、実はまゆみに魅了されている事などを聞いていたがふと気になって聞いてみた。
「上野くんはまゆみを好きにはならなかったの?」
「えっ?」
「いえ、佐伯くんがどれだけまゆみに惹かれているかよく解ったけど、上野くんだって惹かれてるんじゃないの?」
「いや、実は…」
「うん、実は?」
「ノックアウトくらいましたぁっ!」
自分の頭を軽く叩いて笑いながら大袈裟な身ぶりでひとみの笑いを誘う。
「なんだ、もうアプローチしてたんだ。まゆみったらまだまだねんねだからね、カレシとかはまだ早いのかもよ?」
「でも、凄くいい娘だよ。」
「そうね。純粋培養っぽいけど苦労を知ってるし、頑固なくせに我が侭は聞いた事がないわ…。」
「そうだね、本当にいい娘だよ。」うんうんと頷きながら上野がひとみの相槌を打つ。
「まゆみの事を話してたらなんだか私がダメっ子みたく思えてきちゃうのよ。昔からあの子には敵わなかった。勉強も運動も、気遣いとかおしゃれのセンスなんかも…。」
「そんな事ないさ。ひとみちゃんにしかない魅力があるよ。それは誰も敵わない。」上野はにっこり笑って見せた。