キョーコはラブミー部への依頼で書類整理をしていた。なんでも、新人発掘オーディションの申し込み者の履歴書を整理番号順に並べて箱に入れて保存していたらしいのだが、誤ってその箱をぶちまけてしまったらしい。なんとか回収はしたもののリスト通りに並べ直さなければならない状態で、今、ラブミー部の部室に運び困れてきたのだ。

たまたま一人で部室にいたキョーコが取りかかって20分ほどが経過していた。
「138番、田村みゆきさん…あ、あった。139番、飛騨恭介さん…、これこれ。140番、津軽武人さん…、あれ、ないなぁ?」
キョーコは長机一杯に広げた履歴書をかき分けて一生懸命探している。
「津軽って地名姓よね。なんだか名前だけで演歌歌手になれそう。あ、そう言えば私も敦賀さんも地名姓よね?敦賀さんってそっち方面の出身なのかしら?」
キョーコはブツブツ独り言を言いながら探すがかなか見つからない。
「つ…るが、つる…が、敦賀蓮、敦賀蓮、敦賀れ…」
「あんた、まだ終わってないの?」
後ろから声をかける親友の声も反応せずに必死にお目当ての書類を探している。
「敦賀蓮、敦賀蓮、敦賀…、あっ!」
「あんた、何彼氏の名前連呼しながら仕事してんのよっ!」
「えっ、違うよモー子さん、この140番の『敦賀蓮』さんの書類がみつかんなえないのよっ!」
とオーディション応募者リストを見せて訴える。
どれどれとリストの目を向けて140番を見れば『津軽武人』とある。奏江の頭に大きな疑問符が浮かぶ。キョーコはそれに気づかずに「ねっ?だから探しているのよっ!」と訴える。
「140番ね…。」
奏江は長机の上に無造作に散らばる履歴書の山から『津軽武人』のそれをすっと取り上げてキョーコに手渡した。えっと驚いた顔で見上げるキョーコにため息をついて「『敦賀蓮』じゃなくて『津軽武人』よ」と呆れたような口調で言えば、キョーコは手渡された書類と応募者リスト、そして奏江の顔を何回も見て、段々顔が赤くなっていく。そして暫くすると俯いてしまった。と思ったら
「いやぁぁぁぁぁぁっ!恥ずかしいっ!」と養成所仕込みの肺活量と声量をフル活用した絶叫を上げた。

ちょうどスケジュール調整のために事務所に寄った蓮がその絶叫を聞き付けてラブミー部室に駆けつけ、飛び込んできた。
「最上さん、どうしたっ!」
「いやぁぁぁぁぁっ!敦賀さん、来ないで下さいっ!」
またもやキョーコの絶叫がLMEを揺るがした。