撮影中****

「俺、何かつまみを取ってくるよ。」とすっとテーブルを離れたみのる。上野は「おう、頼むな。」と送り出す。まゆみを一瞥する事もなく離れていくみのるの背中をまゆみは目で追ってしまった。ひとみはそんなまゆみに話しかける。
「確かに整ってるけど、あんなに暗いと相手をするのが大変よ?」
「えっ?」
「佐伯くんよ。まゆみちゃん興味あるんでしょ?」
「そんな、私は…別に…。」
「あらっ、顔にはちゃんとそう書いてあるんだけど?」
「うそっ!」とまゆみは両手で自分の顔を覆い隠す。
「そんな訳ないでしょ?」
「もうっ!ひとみちゃんの意地悪っ!」
「まゆみちゃんはあの頃から変わらないのね?」
「へぇ、子供の頃からまゆみちゃんってこんな感じだったんだ。」上野はテーブルに頬杖を突いて笑っている。
「みのるはさ、確かに暗いよな。友達作らないし何でも一人で抱え込むし…。」
「そんな人となんで共同経営を?」ひとみは興味津々とばかりに上野に尋ねる。
「そうだなぁ、あいつに掘れた?」
「「はっ?」」
「いや、あいつの才能に掘れたって事…、勘違いしないでね?」
「なんだ、よかった。」「上野ぐんってすぐそんな事をっ!」
「いやぁ、ごめんごめん。あいつの才能とセンスは素晴らしい。でも、欠けてるものも絶大で、俺はその欠けてるものを補完出来るんじゃないかと思ったんだ。」
「何も、好き好んでそんな修羅の道を行かなくても…。」
「全くだ。自分でもたまにそう思うよ。」
「息抜きとかどうしてるんですか?」
「それなりに息抜きもしてるよ。私生活も楽しいし…。」
「なんだか…」
「へっ?何?」
「なんだか、完璧すぎて変?」
「えっ…」
上野はひとみの歯に絹着せない言葉に苦笑いしか返せない。
「ひとみちゃん、そんなに言ったら上野くんに失礼よ…」
まゆみはテーブルの下でひとみの服の裾を引っ張りながら小声でひとみに抗議する。
「あのっ!ごめんなさい、つい…。」
「いや、そんなふうに言われたのは初めてだよ。なんか新鮮だ。」
上野は嬉しそうにひとみに笑顔を向ける。ひとみは嬉しそうな上野になんとなく気恥ずかしくて目を逸らす。そこにちょうどいいタイミングでみのるが食べ物の皿を幾つか運んできた。
「社長に給仕させるスタッフもなかなかいいもんだろ?」と上野が言えば、「いつもそうじゃないか?」とみのるがやっと笑顔を見せた。