撮影中

「いやいや、これは無駄口だったね、気にしないでくれ。」
まゆみの養父は青年二人の顔色が変わった事に気づいてそう言った。後ろからまゆみ達と同じ年頃の女性がまゆみの養父のスーツの裾を引っ張って「おじ様?」と遠慮がちに声をかけた。

「あぁ、ひとみちゃん悪かった。紹介するよ。」
まゆみは『ひとみ』と呼ばれた女性に視線を移す。シゲシゲと眺めて、まゆみの顔は笑み崩れた。
「ひとみちゃんっ!」
「まゆみちゃん、思い出してくれた?」
「うん。小学校卒業以来ね。懐かしい!」
「そうね、本当に久しぶり。まゆみちゃん、とても綺麗!」
「ひとみちゃんこそ凄く綺麗!」
二人が再会を喜んでいる隣で手持ち無沙汰になった上野が軽く咳払いをする。

「コホン。まゆみちゃん、そのお嬢さんを独り占めせずに紹介してくれないかな?」
「えっ、あっ…ごめんなさい。小学校の同級生でひとみちゃん。中学は別々になったからそれ以来会ってなかったの。だから、つい…。」
「初めまして、徳元ひとみです。」
「上野和樹です。」「佐伯みのるです。」
「ひとみちゃん、二人は大学の友達なの。」
「すごいわ、まゆみちゃん。こんな有名人二人が友達なんて!」
「えっ?そうなの?」
「もぉっ、相変わらず世間に疎いのね。この人達は学生でありながらす…」
「まぁ、そのくらいで勘弁してもらえないかなぁ…。」
上野がひとみの言葉を遮って頭をかきながら苦笑いをする。
「あっ、ごめんなさい、私ったら初対面なのにはしゃいじゃって…」
「いや、それは問題ないよ。可愛いし。」
上野がいつもの調子でひとみを照れさせる。
「上野くんは相変わらずね?」
とまゆみが指摘すると「そんなつもりはないんだけどなぁ。」と上野はおどけて見せる。

まゆみの養父は若者の会話に入れなくなってしまい、「ゆっくりしていきなさい。」とその場を離れた。

「とりあえず座りませんか?」とまゆみの提案に近くにあった丸テーブルを四人で囲んだ。上野がひとみに小さい頃のまゆみの話を必死で聞き出し、ひとみも楽しそうに、懐かしそうに子供の頃の話をする。まゆみがあまり同級生と遊ばなかった事、給食は毎日完食だった事、クラスで一番足が早かった事などを聴いて、上野はたいそう感心した。みのるも黙って話をきいていた。まゆみは恥ずかしそうに俯いたまま顔を真っ赤にしていた。楽しい時間が流れていった。