蓮はキョーコを横たえた客間の扉をノックした。静かに扉が開かれ中からマリアが顔を覗かせる。
マリアは「しーっ!」と唇の前に人差し指をあてて軽くウィングしてみせる。そしてゆっくり扉を開けて蓮を招き入れた。
「蓮様、御姉様はよほど疲れていらっしゃるのね?」
「そうだね。事故の後、あまり休養を取らずに復帰したし、沢山の人に会ってるからね。俺はどちらかと言えば挨拶してもらえる立場だけど、キョーコちゃんは逆だから周りへの気配りも大変だろうと思うよ。」
「そうなんですのね?」
「それが仕事と言ってしまえば簡単なんだけど、今は普通の状態じゃないし、キョーコちゃんはまだまだ子供の年齢だからね。負担も大きいよ。」

マリアと蓮、二人並んでキョーコの寝顔を眺めているとキョーコの瞼がピクピクと動き、ゆっくりと持ち上がる。そしてその大きな瞳にマリアと蓮が映り込む。
「マリアちゃん、それに敦賀さん。私は…どうして…?」
「キョーコちゃん、気分は悪くないかい?」
「御姉様、少しはゆっくりできましたか?」

蓮とマリアの質問にキョーコは驚いて自分の状態を確かめるように周りを見た。知らない天井と家具、いつもと違う肌触りのシーツ…、そこまで考えてキョーコはハッとする。
「私は…寝ていたんですか?」
「うん。泣き疲れちゃったんだよ。」
「ご、こめんなさい。敦賀さんが運んで下さったんですね?えっと、ここは…」
「母屋の客間ですわ、御姉様。」

キョーコはまだ少し戸惑いながらキョロキョロと周りを見ている。
「大丈夫だよ。君は羽根のように軽いから。」
「御姉様、夢に出てきた方々が見つかってよかったですね?」
「あ、そうだった。あの方達は一体…。私の両親なのかしら…?」
キョーコは不安げに蓮を見上げる。蓮の複雑な表情にキョーコは落胆して視線をそらす。「…違うんですね…」
「んとね…「東京でのご両親ですわ。」」
「えっ?」
「御姉様が東京に来て下宿してらっしゃる先のご夫婦だと聞いてますわ。」
「下宿…先の?」
「とてもよくしてもらっているらしいよ。」
「そうですわ。パーティーの時も私が妬けてしまいそうな程に仲がよろしくて…。」
「…そうなんだ」
「会いに行ってみる?」
「本当ですかっ!」
「勿論。この時期俺もキョーコちゃんもスケジュールに余裕があるから、行ってみよう。社長に確認とってみるよ。」
蓮の優しい笑顔をキョーコは眩しそうに見つめた。