サイドローリー

男性の判断は早かった。
「社長さん、今の俺達がキョーコにしてやれる事は、ないんだな?」
「はい、今の状況では混乱を招く可能性もあると思われます。」
「そうか、解った。俺達は社長さんを信じていいんだな?」
「はい、勿論です。最上くんはLMEの所属タレント。私には家族同然。出来る限りの事をさせていただきます。」
「さうか、その言葉を信じる。おい、帰るゾッ!」
隣の女性にぶっきらぼうに声をかける。
「あんた、本当にかえっちまうのかい?キョーコちゃんが、キョーコちゃんが…。」
「騒ぐんじゃねぇ。俺はこの社長さんに言うべき事は言った。そして今の状況では俺達がキョーコにしてやれる事はない。なら邪魔なだけだ。帰るぞっ!」
「あんた…、解ったよ。あんたの言う通りにするよ。」
そういうと女性は涙をもう一度拭って俺をじっと見た。
「あの…、キョーコちゃんを、キョーコちゃんを…「キョーコをよろしくお願いします。」」
涙で声を詰まらせる女性に、すっと立ち上がった男性が声を被せてそう言うと深々と頭を下げる。女性もそれに習って立ち上がって深々と頭を下げる。
俺も立ち上がって応える。
「最大限出来る限り尽力します。どうか私を信じてお待ち下さい。」
俺も深々と頭を下げた。この夫婦からは親心がずしりと伝わってくる。その重さと尊さを俺は受け止めた。

男性がまだ足元の覚束ない女性の左二の腕をぐっと掴んで部屋を後にした。引きずられるように泣きながら付いていく女性を扉の前で叱咤する。
「バカ野郎、いつまでもメソメソ泣いてるんじゃねぇ。キョーコが戻ってきた時に俺達がそんなしけた面してたら笑われちまうぞっ!」
男性の声がとても硬く聞こえた。きっと込み上げてくる感情を無理矢理押さえ込んでいたのだと思う。俺は二人が部屋を出て扉が閉まった後もしばらく下げた頭を上げる事が出来なかった。
「一日も早くお二人の元に彼女をお返ししますから」

誰もいなくなった部屋でそう誓った。