サイドローリー
俺の目の前にいる最上くんの『父親』は怒りを孕みながら出来る限りの冷静に穏やかに言葉を続けた。
「うちの娘は敦賀蓮の盾になるためにあいつのところに行ったんじゃねぇ。幸せになるために行ったんだ。だから俺達は送り出した。だが、今のあいつにキョーコは任せられねぇ。連れて帰る。」
「いや、それは待ってください。」
「なんでだ。もう十分だろう?それとも、『敦賀蓮』はキョーコの犠牲がなければ成り立たないほど不甲斐ないやつなのか?」
思わず『そうです』と言いかけたがそれは今の話題で問題になっている側面ではないのでやめた。
確かにこの時の報道は京子に対するバッシングが横行していた。LMEとしての対応が遅れてしまった事も否めない。ご両親の怒りはご最もで胸が痛んだ。だが、二人の現状を知る限り、今の彼女をご両親の元に返す事は憚られた。
「私の話を冷静に聞いていただけますか?」
些か低めの声に自分でも驚きながら話を進めた。
「最上くんは敦賀と今、神奈川県のとある病院に入院しています。奇跡的に外傷はほとんどなく、本人達はとても元気だと現地に行ったスタッフから連絡を受けました。」
「なら、退院してきたらすぐにでも…「それが…」ん?」
歯切れの悪い俺の言葉に男性の言葉は止まった。
「最上くんは記憶に混乱が見られるという報告をうけています。」
「「それは?!」」
ご夫婦の声が重なる。
「はい、過去の記憶がない状態だそうです。名前も何もかも忘れてしまっているそうです。勿論、お互いの事も…」
「そんな、キョーコちゃん…」
今まで言葉を出さなかった女性がそう呟くとみるみる涙が溢れて、必死に目頭をハンカチで押さえながら止まらない涙にとまどっておられる。
「なんで…だっ?」
「詳しくは解りません。事故の強い衝撃が招いた症状としか医者からの説明は受けてないようですが…。」
「もう、私たちの事も…解らないんですか?」
女性は涙に声を詰まらせながら辛うじて尋ねた。
「はい、お二人だけでなく全てを忘れてしまっているようです。」
改めて言葉にすると俺も胸の奥から込み上げてくる感情に鼻の奥がツンとして目頭が熱くなる。
「そ、そんな…」
女性はぽろぽろと涙を流して泣き崩れる。男性はぐっと唇を引き絞り、挑むように俺を見据えて「本当なのか」と尋ねた。
「はい、残念ながら…」と答えると「そう…なのか…」と独り言のように呟いた。
俺の目の前にいる最上くんの『父親』は怒りを孕みながら出来る限りの冷静に穏やかに言葉を続けた。
「うちの娘は敦賀蓮の盾になるためにあいつのところに行ったんじゃねぇ。幸せになるために行ったんだ。だから俺達は送り出した。だが、今のあいつにキョーコは任せられねぇ。連れて帰る。」
「いや、それは待ってください。」
「なんでだ。もう十分だろう?それとも、『敦賀蓮』はキョーコの犠牲がなければ成り立たないほど不甲斐ないやつなのか?」
思わず『そうです』と言いかけたがそれは今の話題で問題になっている側面ではないのでやめた。
確かにこの時の報道は京子に対するバッシングが横行していた。LMEとしての対応が遅れてしまった事も否めない。ご両親の怒りはご最もで胸が痛んだ。だが、二人の現状を知る限り、今の彼女をご両親の元に返す事は憚られた。
「私の話を冷静に聞いていただけますか?」
些か低めの声に自分でも驚きながら話を進めた。
「最上くんは敦賀と今、神奈川県のとある病院に入院しています。奇跡的に外傷はほとんどなく、本人達はとても元気だと現地に行ったスタッフから連絡を受けました。」
「なら、退院してきたらすぐにでも…「それが…」ん?」
歯切れの悪い俺の言葉に男性の言葉は止まった。
「最上くんは記憶に混乱が見られるという報告をうけています。」
「「それは?!」」
ご夫婦の声が重なる。
「はい、過去の記憶がない状態だそうです。名前も何もかも忘れてしまっているそうです。勿論、お互いの事も…」
「そんな、キョーコちゃん…」
今まで言葉を出さなかった女性がそう呟くとみるみる涙が溢れて、必死に目頭をハンカチで押さえながら止まらない涙にとまどっておられる。
「なんで…だっ?」
「詳しくは解りません。事故の強い衝撃が招いた症状としか医者からの説明は受けてないようですが…。」
「もう、私たちの事も…解らないんですか?」
女性は涙に声を詰まらせながら辛うじて尋ねた。
「はい、お二人だけでなく全てを忘れてしまっているようです。」
改めて言葉にすると俺も胸の奥から込み上げてくる感情に鼻の奥がツンとして目頭が熱くなる。
「そ、そんな…」
女性はぽろぽろと涙を流して泣き崩れる。男性はぐっと唇を引き絞り、挑むように俺を見据えて「本当なのか」と尋ねた。
「はい、残念ながら…」と答えると「そう…なのか…」と独り言のように呟いた。