サイドローリー

最上くんが夢に出てきたというご夫婦に俺はすぐに思い当たった。そう、蓮と最上くんの事故が報道されていち早く会社に連絡をしてきた人物がそのご主人だった。
「キョーコはどうなっている!」
俺に会いたいと手順通りにアポを取って目の前に現れたその人物はもの静かではあったが怒りを体中にみなぎらせていた。
「今回は申し訳ない事です。」と謝罪をしたが彼の怒りは収まらない。
「あいつが、敦賀蓮がキョーコを護るというから俺達は認めたんだ。元々親でもない俺達に口を挟む権利などないが、実の子のように思う娘を心配するくらいは許されるだろう…。」
出来るだけ穏やかな口調を心がけてゆっくり言葉を紡ぐ彼だからこそ、その憤りが伝わってきた。日頃立ち入りはしないだろう雰囲気のLME社長室で気押される事なくまっすぐ俺と対峙するその姿がとても凛々しかった。隣に控える奥さんは口を開かずに座っているが、ご主人に全幅の信頼を持ってご主人を支えていた。理想的な夫婦の形。最上くんは素晴らしいご夫婦の元で暮らしていたのだと感じた。

「今回は大変申し訳ない。二人のプライベートな時間帯に起こった事故なので会社側としても今はまだ調査中としかお話できないんです「そんな事は解っているっ!」…はぁ、ではご用の向きは…?」
「あの報道はなんだっ!うちの娘がなぜ一人悪者にならなければならない?」
「それは…。」
「あいつは、敦賀蓮はここの看板俳優で、うちの娘はまだ駆け出しの新人だから仕方ないのか?」
「いや、一般的にはそう言われ勝ちですが、こちらとしては一切そんな事は考えてはおりません。」
「じゃあ、何故言いたい放題の報道をさせている?業界一の名を欲しいままにするこの事務所だ。その社長さんが一言声をあげれば造作もないことだろう?」
「それはそうですが、今はその時ではない…。」
「じゃあ何時なんだっ!」
「それはまだ定かではありません。」
「敦賀蓮は俺とこいつの前で『全身全霊を以てお嬢さんを護りますから』と言いやがった。俺もこいつもあいつのその言葉を信じたんだ。だがどうだ、その舌の根も乾かぬ内にこの事故だ。事故は仕方ねぇ。その後が悪すぎる。あいつはキョーコだけを悪者にして被害者面を決め込んでいるじゃねえか。護ると言いながらキョーコの犠牲に護られてやがるっ!」
「それは…」

内情はどうあれ今の状況はこの人物が言うままだ。俺は一瞬言葉を失った。