新開誠士は悩んでいた。

ここ近年ではまれに見る視聴率を誇るドラマ『君の言い訳、僕の嘘』は佳境に入っている。視聴率が高いという事は注目を浴びているという事で、それだけに視聴者からの意見も飛び交う。大手民放局をキー局に放映しているどらまなので、反響によっては加筆修正を余儀なくされる事もある。特にスポンサーサイドからの申し出は無視できない。

放映が始まってまず想定外だったのは『上野一機』に人気が集まった事。上野の役どころはみのるとまゆみを引き合わせるきっかけで、まとまる為の仕込みだった。彼はひたすらいい人で、そのギャラを変える事はないはずだった。だが、視聴者からの意見で上野にスポットライトが当たる話を入れて、みのるに対してヒールに徹してみのるとまゆみの距離を近づけるシーンも増やされ、その結果として上野に対する好感度がかなり上がっている。faceNoteやnixyなどのSNSでは『上野くんが可哀想!』『上野くんの方が素敵よっ!』などの書き込みが多くなり、スポンサーも『上野くんの扱い如何でスポンサーイメージが変わる!』と言ってきた。
加筆修正は問題ない(いや、不本意ではあるが)。何より問題なのは後二話で何とも出来ないという事だ。これ以上上野の話を盛り込めば主人公の二人の話もまとまらなくなってしまう。だが、ここで上野の話をそのままにしてしまうには視聴者やスポンサーからの声は大きかった。

プロデューサーと話を詰めた結果として、特番を作るという方向で話はまとまった。今回は4月始まりの1クール、夏の1クールを終えた改編期に二時間ドラマで解決に至るという企画だ。そのころにはDVDの発売もあるので、上手く売り上げを伸ばせるだろうという意見でまとまった。
それもあって、最終回は二時間ドラマに向けての伏線を引いて終わる運びとなった。ただ、最終回ギリギリまではこの事を公表せず、最終回で告知するという流れをとる事になった。最終回放映から二時間ドラマまでの3ヶ月間、視聴者は待っていてくれるのかという意見もあったが、敦賀蓮、京子、貴島秀人のネームバリューは不動で、そこにもう一人若手実力派を加えるので大丈夫だろうと、楽観的な判断がなされた。

こうして脚本は大きく起動修正を強いられたが、よりいいものをという関係者の熱意で最終回の収録を迎えた。