sideキョーコ

上手くつけられずにいると敦賀さんの手がすっとそれらを持ち去ってすぐにiPoneを綺麗に納めて戻してくれた。私はiPoneにケースがついた事が嬉しくて、しかもこのシンプルなデザインが気に入って眺めていた。すると、背面のカードケースに何かが入っている事に気付いた。(なんだろう、台紙かな?)
そんな事を思いながらも「敦賀さん、何か入ってますよ?」と引き出すと金属でできた銀色のカード。なんだろう、どこかで見た事のあるような…。「あの、このカード何ですか?」と敦賀さんを見上げて首を傾げると頬杖を突いたまま笑みを湛えていたけど、すっと身を乗り出して私の耳元で囁く。「それはね、俺の部屋の鍵。君ならいつでも大歓迎だから。持ってて。」
あの、いつもより声が低く甘く感じるのは私の気のせいですか?
唇が耳たぶに軽く触れたと思ったら、敦賀さんは何もなかったかのようにすっと身を退いた。
えっ?…えぇっ!
頭の中は絶賛パニック中!思わず叫びだしそうになるのを最後の理性の欠片でぐっと堪えた。よくがんばったわ、私っ!
私をみる敦賀さんの甘い表情とさっき耳に届いた甘い声、微かに耳たぶに触れた感触に一気にお酒がまわったようで、顔が熱くなる。
「ありがとうございます、大事にしますね?」と自然と言葉が出た。敦賀さんは一瞬驚いた顔になったけど、「うん、楽しみにしてるよ。」とすぐに柔らかくて甘々しい笑顔をくれた。もしここで『その笑顔を独り占めしたい』と言えば、敦賀さんは首を縦に振ってくれるのかしら…?
違う違う、この笑顔は敦賀さんが私に向けた笑顔じゃなくて、彼が彼女に向けた笑顔よ!勘違いしちゃだめよ、キョーコ!

それからなんとか平静を保って他愛のない会話をしていると助監督さんからカットの声がかかって私達はセットを降りた。
「蓮、最上さん、君たちはこれで上がりだ。いい絵がとれたよ。あとは俺がアートに仕上げてやるから巻かせとけって!」という黒崎監督の声に一気に緊張が解ける。黒崎監督が私を『最上さん』と呼ぶのは最初のお仕事のキュララのCMの時の名残だなんてぼんやり考えてしまった。
「「お疲れさまでした。」」と敦賀さんと二人、監督に挨拶をする。そして敦賀さんを見上げると視線が合ってしまった、恥ずかしいっ!
この人はいつもどうして私の心を揺さぶってくれるのかしらっ!