撮影の合間に楽屋に戻ってきた。社さんは事務所と連絡を取ると言って楽屋を出たので俺一人。
俺はバッグのサイドポケットから買ったばかりのiPoneを取り出す。最上さんが白いiPoneを持ったと聞いて、その足でショップに行って買い求めたもの。同じ物を持ちたくて、でも色違いの黒を選んだ。その時、近くの棚に並んでいたiPone用ケースを眺めていてつい衝動買い。それはiPoneの背中がバインダーになる便利なケース。白と黒を買って、黒は既に俺のiPoneを着けてある。今度会ったら渡そう。彼女、喜ぶかなぁ…。
私物の携帯は初めて持つ。勿論初めてコールするのは最上さんにと決めていた。連絡先に唯一登録された『最上キョーコ』を呼び出して発信ボタンをタップする。そのままiPoneを耳に当てるとトゥルルルル……とコール音の後に繋がった。
俺『敦賀です。(なんだか緊張するなぁ…。)』
彼女『…ど、どういったご用件でしょうか?』
俺『敦賀です。(あれ、気付いてないのかなぁ?)』
彼女『ど、どちらにおかけでしょうか?』
俺『(えっ、もしかしてまさかの間違い電話?)最上さん…だよね?』俺はかなり焦って声は上擦ってしまった。
彼女『…、いえっ、私はただの女子高生でございますっ!』
ぶつっ、ツー、ツー、ツー
あれ、切れちゃった…。
想定外の内容に暫しの間呆然としてしまった俺。先ほどの会話を頭の中で思い返す。

『ただの女子高生でございます』って最上さん、君って本当に面白い反応するよね?
俺の頭の中には真っ青な顔をしてiPoneに向かって叫ぶ最上さんの姿が鮮明に浮かんでくる。そんな形相でさえ可愛らしいと思ってしまうのは俺が彼女に骨抜きにされている証拠なのだろうな。
俺は、思わず切ってしまった通話にあたふたしているだろう最上さんを思いながらもリダイアルボタンをタッチした。

つづく