サイド蓮
「敦賀さん、どうしたんですか?」
キッチンの入口で壁に凭れて自分を眺めている俺に気付いてキョーコちゃんはそう問いかける。こちらを振り向いて首を傾げている姿はとても可愛くて思わずこの手が伸びそうになるのを堪えるために理性を総動員しなければならない。腕組みをしていた自分を大いに誉めてやりたい。「もう少しかかるのかなと思って覗きに来たんだ。」と平静を装う。まさか独りが怖くて君の傍に来たんだなんて言える訳がない。「あ、心配させてすみません。」と彼女は目尻を下げてシュンとする。そんな顔をさせたい訳じゃないんだ。俺の身勝手なんだから…。「いや、ここで見てていいかな?」俺の声は少し掠れている。彼女にその事に気付かれたくなくて、俺は出来るだけ穏やかな笑顔を満面にたたえながらそういう。と、彼女は少し頬を赤くしながらも「あまり面白くもないですけど、よろしければどうぞ…。」と言って、ぷいっと背中を向けて作業の続きを始める。彼女はテキパキ無駄のない動きで用事を済ませていく。俺はその姿をぼんやり眺めているだけでほんわかした気持ちになる。小さな子供がキッチンで忙しく動く母親にまとわりつく気持ちが今ならとてもよく解る。俺の体は無意識に動いていた。気づくとシンクの前に立って洗い物をしている彼女を後ろから抱き締めていた。キョーコちゃんがビクッと体を震わせて事でハッとして我に帰ったが抱き締めて手は緩めてあげられないでいた。彼女の肩に額を付けてまとわりついていると彼女の小さな手が俺の二の腕をペチペチと遠慮がちに叩く。「あの、洗い物させていただけませんか?」とこれまた遠慮がちに問いかける。「いやだ」とだけ答えてまだ俺は動かない。こうしているだけでさっきの不安が嘘のように消えていく。彼女の存在が俺にとってはどんなトランキライザーよりも有効なのだ。俺はもうキョーコちゃんなしでは生きていけない事を思い知らされて、そんな自分が情けないと思いながらも、そんな俺もいいんじゃないかとさえ思えてくる。
「後片付けができませんから…。」彼女の控えめな抗議に「何か手伝おうか?」と耳元で囁けばみるみる耳朶が赤くなる。本当にこの娘の全てが可愛くてたまらない。だが、そう想う程に彼女との距離を保たなければならないと思う。これ以上近づいてしまえば彼女を傷付けてしまうのではないかと不安が過る。暴走してしまいそうなこの気持ちをなんとか押さえ込んでいるのが精一杯な俺がいる。
「敦賀さん、どうしたんですか?」
キッチンの入口で壁に凭れて自分を眺めている俺に気付いてキョーコちゃんはそう問いかける。こちらを振り向いて首を傾げている姿はとても可愛くて思わずこの手が伸びそうになるのを堪えるために理性を総動員しなければならない。腕組みをしていた自分を大いに誉めてやりたい。「もう少しかかるのかなと思って覗きに来たんだ。」と平静を装う。まさか独りが怖くて君の傍に来たんだなんて言える訳がない。「あ、心配させてすみません。」と彼女は目尻を下げてシュンとする。そんな顔をさせたい訳じゃないんだ。俺の身勝手なんだから…。「いや、ここで見てていいかな?」俺の声は少し掠れている。彼女にその事に気付かれたくなくて、俺は出来るだけ穏やかな笑顔を満面にたたえながらそういう。と、彼女は少し頬を赤くしながらも「あまり面白くもないですけど、よろしければどうぞ…。」と言って、ぷいっと背中を向けて作業の続きを始める。彼女はテキパキ無駄のない動きで用事を済ませていく。俺はその姿をぼんやり眺めているだけでほんわかした気持ちになる。小さな子供がキッチンで忙しく動く母親にまとわりつく気持ちが今ならとてもよく解る。俺の体は無意識に動いていた。気づくとシンクの前に立って洗い物をしている彼女を後ろから抱き締めていた。キョーコちゃんがビクッと体を震わせて事でハッとして我に帰ったが抱き締めて手は緩めてあげられないでいた。彼女の肩に額を付けてまとわりついていると彼女の小さな手が俺の二の腕をペチペチと遠慮がちに叩く。「あの、洗い物させていただけませんか?」とこれまた遠慮がちに問いかける。「いやだ」とだけ答えてまだ俺は動かない。こうしているだけでさっきの不安が嘘のように消えていく。彼女の存在が俺にとってはどんなトランキライザーよりも有効なのだ。俺はもうキョーコちゃんなしでは生きていけない事を思い知らされて、そんな自分が情けないと思いながらも、そんな俺もいいんじゃないかとさえ思えてくる。
「後片付けができませんから…。」彼女の控えめな抗議に「何か手伝おうか?」と耳元で囁けばみるみる耳朶が赤くなる。本当にこの娘の全てが可愛くてたまらない。だが、そう想う程に彼女との距離を保たなければならないと思う。これ以上近づいてしまえば彼女を傷付けてしまうのではないかと不安が過る。暴走してしまいそうなこの気持ちをなんとか押さえ込んでいるのが精一杯な俺がいる。