撮影中****

「どうして此処だと解ったの?」「なんとなく…かな?」「なんとなくこんな所に来ないと思うけど…。」まゆみは首を傾げて聞いてくる。
「みのるが…ね、」「えっ?」「よく此処へ逃げてきてたんだ。」「佐伯くん、が?」まゆみはよく解らないと聞き返す。
「あいつが一人でいるとよく女の子に囲まれてしまってたんだ。あいつ目立つしあんなだし、疲れてしまうと此処でぼんやりしてたりしたんだよ。」「私…、会った事ないよ?」「あぁ、俺と一緒にいるようになってからは来なくなったよ。俺が来させないって所もあるけどね。」「そうなんだ…。」「あいつは人目を避けて、一人になれるところを探し回ってたんだよ。学内で多分、此処が一番人気が少ないんだ。だからあいつは此処の常連だったんだ。だからね…」「だから?」「まゆみちゃんも此処を知ってるんじゃないかと思って、ね。」「私…が?」「まゆみちゃんもすぐ一人になりたがるだろ?」「えっ?」「似てるんだよ、色々と。」「私が?」「そう、まゆみちゃんとみのるはよく似ている。だから解ったんだ。」上野は言葉を切って空を見上げた。「なんで泣いてたの?」と聞かれ、まゆみはまた俯く。「みのるが酷い事したり言ったりしたの?それなら俺が成敗してあげるよ?」「…、違うの。酷いのは私…」「えっ?」「私が酷い事を言ったの。」上野は俯いたままのまゆみにどう言葉をかけていいか解らなくなった。そして此処に来る時に持って来たまゆみの鞄に気付く。「あ、そうだ、忘れ物だよ。」と鞄を差し出す。「えっ?、あっ!ありがとう!」と慌てるまゆみ。まゆみは上野に差し出されるまで鞄を忘れていた事にさえ気付いてなかったようだ。上野は堪える事が出来ずに思わず失笑してしまった。
「私、お見合いするの。」
上野が一頻り笑い終えた時にまゆみが告げた。「えっ!」さすがに驚きが隠せない上野。「養父の会社の取引先の社長のご子息と…。」「今時政略結婚なんて流行んないんじゃない?」「よく解らないけど、私はずっと両養親の気持ちを中心に生きてきたから、このお話も当然の事と受け入れるつもりだったの。」「そっか、まゆみちゃんはご両親が大切なんだね?」「えぇ、私をとても可愛がってくれる両養親、私は恩を返したいの。でも、何が出来る訳でもないから。」「そんな事ないんじゃない?君がいる、それだけで素晴らしい事だと思うよ。」
上野の言葉は何処までも暖かい。まゆみはまた目頭が熱くなった。