撮影中****

まゆみの荷物を手にカフェをでた上野だったが、まゆみの行き先に心当りがあるわけではない。勢いで出てきてしまったがはたと困って苦笑する。「俺もバカだな。まゆみちゃんの涙に冷静でいられなくなった。」近くにあったベンチに座って大きなため息を吐く。『まゆみちゃんの行きそうな所かぁ…』考えても思い浮かぶ程には付き合いは長くない。ふと、みのるが一人になりたい時に行く場所を思い浮かべた。みのるはあの見てくれだからどこに行っても目立ってしまう。一人でいると必ずといっていいほど誰かに声をかけられていた。ゼミで打ち解けて以来、上野もよくそんな現場に出くわした。そんな状況が煩わしくて、みのるはよく一人になれる場所を探していた。上野が隣に立つようになってからはそういう煩わしさから解放されたのか殆どいなくなる事はなかったが、その事に気付くまであちこち探し回さなければならなかった事を思い出す。そして一番よう見つけた場所。学舎裏の人気のない小さな庭が思い浮かぶ、そしてなぜか今、まゆみがそこにいるのではと思ってしまった。いや、ほぼ確信に近い予想だ。反面、そうであって欲しくないと思う自分を叱咤して、思い当たった場所へ向かう。
『やっぱりか…』上野はまゆみを見つけた事への安堵と小さな落胆の入り交じったため息をついた。まゆみはそんな上野に気付きもしないでどこかぼんやりと虚空をみつめているようだった。
「お嬢さん、こんなところでいたら風邪ひくよ。」上野はできるだけ明るい声でそう呼びかける。まゆみは人の声に驚いてビクッと肩を震わせて上野を見た。その顔には『なんで?』と大きく書いてあった。「なんとなくこの辺じゃないかと思ったんだ。」とまゆみの顔に書かれていた質問に答えてまゆみの隣に座る。「まゆみちゃん、俺にぶつかったのに気づかずに行っちゃうし…、嫌われたのかと思って寂しかったよ。」とちょっと拗ねた顔をする。「そ、そんな…。さっきのは上野くんだったの?ごめんなさい…。」「嫌われてないんならいいんだよ。怪我はなかった?」「うん、平気。上野くんも大丈夫だった?」「うん、俺は頑丈にできてるからね。」そう笑いかけるとまゆみもつられてくすっと笑った。「やっと笑ったね。まゆみちゃんにはさっきみたいな涙よりそんな可愛い笑顔の方がよく似合うよ。」上野はそう言ってまた笑う。まゆみは気持ちが凪いでいくのを感じていた。