撮影中****
上野は急いでいた。みのるとの待ち合わせには既に10分遅れていた。
「参ったなぁ、みのるはのんびりコーヒータイムだろう。爽やかな顔で嫌味の一つでも言われるならましなんだけど、あいつそういう思考がないからなぁ。しかし厄介な人に捕まったよ。いい人なんだけどいつも話が長すぎなんだよな。」と独り言。そしてカフェに入ろうとした時、肩口にトンっと小さな衝撃を感じた。「ごめんね、急いでたから…」と反射的に謝ってぶつかった相手を見る。見覚えのある姿に声をかけようとして、その目に涙をみつけて息を飲む。その小さな体は「ごめんなさい」と小さく頭を下げて上野を見る事もなく立ち去ろうとする。「ま、まゆみちゃん!?」慌てて呼び止めようと名前を呼ぶが聞こえないのかそのままずんずん行ってしまう。店の中を見れば何とも情けない顔でまゆみを見て動けないみのる。上野は何度か交互に二人を見やって小さなため息をつく。そして店の中にいるみのるに鋭い視線を向けてツカツカ近づいていく。
「何があった!」みのるはまだ動かない。「なに泣かしてんだよっ!」みのるはやっと上野に気づいてのろのろと視線を上野にむける。「いや、お…れは、別に…」今にも消え入りそうな小さな声。「何もない訳ないだろうっ!」バンっとテーブルを叩いて噛みつく勢いで上野は追求する。「いや…」みのるは俯いて椅子に座ろうとしたが叶わなかった。上野の両手手がみのるはシャツの襟首を掴んでいたから。強い力にシャツのボタンがいくつか飛んで床に落ちた。「なんで泣かすんだよっ!」上野の怒り心頭の表情。間近にある友の顔は怒りに歪んでいたが、みのるはその顔を綺麗だと感じた。上野はこんな顔が出来るのか。誰かの為にこれほどまでに感情を露に出来るものなのかと、羨ましいとさえ思ってしまった。彼の怒りの矛先は自分だというのにどこか他人事のように見えてしまう。そうする事で自分を保ってきたのだが、今のこの場面ですらそうしか出来ない自分が凄く矮小で無益な存在だと思えてしまう。『俺にないものを上野は持っている』と実感する。上野は自分に胸ぐらを捕まれながらもどこか呆然と焦点の合わないみのるの目にこれ以上の追求は無駄だと感じた。掴んでいた襟首を荒っぽく突き放す。手間の椅子に残ったまゆみの荷物を取ると「ばか野郎」と小さく低く響く声で吐き捨てて店を出た。みのるはやはり呆然と見送る事しかできず
上野は急いでいた。みのるとの待ち合わせには既に10分遅れていた。
「参ったなぁ、みのるはのんびりコーヒータイムだろう。爽やかな顔で嫌味の一つでも言われるならましなんだけど、あいつそういう思考がないからなぁ。しかし厄介な人に捕まったよ。いい人なんだけどいつも話が長すぎなんだよな。」と独り言。そしてカフェに入ろうとした時、肩口にトンっと小さな衝撃を感じた。「ごめんね、急いでたから…」と反射的に謝ってぶつかった相手を見る。見覚えのある姿に声をかけようとして、その目に涙をみつけて息を飲む。その小さな体は「ごめんなさい」と小さく頭を下げて上野を見る事もなく立ち去ろうとする。「ま、まゆみちゃん!?」慌てて呼び止めようと名前を呼ぶが聞こえないのかそのままずんずん行ってしまう。店の中を見れば何とも情けない顔でまゆみを見て動けないみのる。上野は何度か交互に二人を見やって小さなため息をつく。そして店の中にいるみのるに鋭い視線を向けてツカツカ近づいていく。
「何があった!」みのるはまだ動かない。「なに泣かしてんだよっ!」みのるはやっと上野に気づいてのろのろと視線を上野にむける。「いや、お…れは、別に…」今にも消え入りそうな小さな声。「何もない訳ないだろうっ!」バンっとテーブルを叩いて噛みつく勢いで上野は追求する。「いや…」みのるは俯いて椅子に座ろうとしたが叶わなかった。上野の両手手がみのるはシャツの襟首を掴んでいたから。強い力にシャツのボタンがいくつか飛んで床に落ちた。「なんで泣かすんだよっ!」上野の怒り心頭の表情。間近にある友の顔は怒りに歪んでいたが、みのるはその顔を綺麗だと感じた。上野はこんな顔が出来るのか。誰かの為にこれほどまでに感情を露に出来るものなのかと、羨ましいとさえ思ってしまった。彼の怒りの矛先は自分だというのにどこか他人事のように見えてしまう。そうする事で自分を保ってきたのだが、今のこの場面ですらそうしか出来ない自分が凄く矮小で無益な存在だと思えてしまう。『俺にないものを上野は持っている』と実感する。上野は自分に胸ぐらを捕まれながらもどこか呆然と焦点の合わないみのるの目にこれ以上の追求は無駄だと感じた。掴んでいた襟首を荒っぽく突き放す。手間の椅子に残ったまゆみの荷物を取ると「ばか野郎」と小さく低く響く声で吐き捨てて店を出た。みのるはやはり呆然と見送る事しかできず