横浜市内でのロケを終えて今日の予定は終了となった。上野がみのるの部屋に来るシーンは先に撮ってあるから今日のところは解散という運びになった。俺とキョーコちゃんはセバスチャンの車で来ていたのでロケバスで帰る皆さんを見送ってほっとため息をついた。
「蓮、この後どうする?」「そうですね、まだ時間も早いしさっさと帰るには勿体無いですかね?」「この後お二人とも仕事の予定は特にありません。」とさりげなく伝えるセバスチャンに社は苦笑する。「社長邸までここから二時間みるとして、夕方6時には動きたいから、それまで横浜散策でもしてくるかい?」と社はあえてキョーコに視線を向ける。キョーコは一瞬躊躇ったがみるみる顔が綻び、「はいっ!」と元気な返事を返す。蓮はそんなキョーコの姿に笑顔を向けている。セバスチャンはいつから用意していたのか蓮に野球帽とサングラスを渡し、キョーコには可愛い鍔の大きな帽子を渡す。「一応変装と申しますかカモフラージュにお使い下さい。」「ありがとうございます。」と二人はそれを受け取る。「俺とセバスチャンは事務所と打ち合わせをして休憩してるよ。帰りの時間が近づいたら連絡入れるからなぁ。」とニンマリ笑う社とあくまで無表情で頭を下げるセバスチャンに見送られ、蓮とキョーコは歩き始めた。
考えてみれば、事故の後二人だけで行動するのはこれが初めてだ。その事に些か緊張するキョーコ。そんなキョーコを安心させるように蓮はキョーコの手をとって指を絡めて繋いだ。その行動に驚いて見上げてくるキョーコに笑顔を返すとキョーコは顔を赤くして俯いてしまった。耳まで真っ赤に染めて俯いているキョーコの手を自分の方に引き寄せれば何の抵抗もなく凭れるように寄り添ってくる。繋いでいた手を離してキョーコの肩を抱き寄せれば温もりを失ったキョーコの手が蓮の背中に回り、シャツをキュッと掴んですがり付いてくる。下を向いているキョーコの顔はセバスチャンに渡された帽子に阻まれて見る事が出来ない。二人はそのまま歩き続ける。元々異国情緒の漂う横浜。そんなふうにじゃれあう二人にはとても寛容で、照れて俯くしか出来なかったキョーコも段々開放的な気分になる。キョーコは蓮を見上げて「歩き辛くないですか?」と問いかける。蓮はキョーコの肩に回した手に少し力を込めて「大丈夫だよ。」とキョーコを見下ろす。ぶつかる視線にお互い顔を赤らめてしまう。ほんの一時、横浜で二人は恋人気分を味わった。