サイドキョーコ

山下公園での撮影は本当にゆったりしていた。まゆみちゃんが公園の中にあるお店でソフトクリームを二つ買って上野くんに渡すシーンは凄く気恥ずかしかったけど、こんなシチュエーションになんだか凄くときめいてしまった。今度はモー子さんを誘って公園とか行きたいなぁって考えてた。無邪気に遊んでいる子供達は凄くかわいくて沢山の元気を貰えた。貴島さんもニコニコしながら子供達を眺めていたから「子供は好きですか?」と聞いたら「うん、嫌いじゃないよ。見ていて飽きないし。」と返ってきた。「飽きないといえば、京子ちゃんも見ていて全然飽きないよね。」と付け加えられた言葉に「へっ?」とへんな声をだしちゃった。すると「そうそう、そんなふうに百面相してくれるからいじり甲斐あるんだよね。」とほっぺをつつかれた。「もぉっ!子供扱いですね?」とむくれると「ごめんごめん、でも誉め言葉なんだよ。」と全然悪いと思っていない様子。「ふぅ、貴島さんには敵いませんね…。」と言えば「おいおい、それは俺のセリフだよ。京子ちゃんって俺の心を乱す数少ない女性の一人なんだからね。」「なんですか、それ?」「そのままの意味さ。」「あっ、もし私が失礼な事して不愉快にさせてるなら謝ります、ごめんなさい!」なんだかよく解らないけど今は謝るのが最善のような気がして思いっきり頭をさげた。のに…。
「クククッ…あは、ははははっ!」
貴島さんは大笑いしはじめちゃった。なにか私、変な事を言ったのかしら?
「あはは、やっぱり京子ちゃんには敵わないよ。敦賀くんってすごいよな。こんな素敵な娘が間近にいるのにずっと紳士でいられるんだからなぁ。あははは。」いきなり出てきた『敦賀くん』の名前にかなり動揺してしまう。なんで今ここで敦賀さんなんだろう?
そんな私を眺めながら貴島さんはまだ笑っている。「貴島さん、笑いすぎですよ!」と抗議すれば「ごめんごめん」と言いながらも笑いが止まる様子はない。私は小さくため息をついて貴島さんが笑い終わるのを待つことにした。
ひとしきり笑っていた貴島さんがようやくおちついてふっと私を見た。「さ、行こうか、次のシーンが始まるよ。」
すっと立ち上がり、私の方に振り返って手を差し出す。私はその手に手を重ねて立たせてもらう。こんな流れるような動きもさまになるこの人もずるいなぁと思う。貴島さんに敦賀さんを重ねて見てしまった事は私だけの秘密。