撮影中****

「港って意外と殺風景なもんなんだねぇ。」上野は埠頭の方を眺めながらそう呟く。「でも、潮風が気持ちいいや。」そういうと両手の指を組んで大きくのびをする。「ん~っ!」と気持ち良さそうな声をだして手を下ろすと今度は深呼吸。「はぁ、リフレッシュだなぁ。」と軽く全身のストレッチを始める。
「クスッ、上野くんって本当に元気ね。」「あぁ、俺にはそれくらいしか売りがないからね。」「そんな事ないでしょ?」「いや、そんなもんだよ。」「そぉなの?」「そうなんです。」また無駄に胸を張る上野。「……。…っぶっ!もぉっ!」「へへっ、笑ったなぁっ!」「だって、クスクス…上野くんが笑わすんだもの…クスクス」「ちぇっ、傷付くなぁ。俺、こう見えても結構繊細なんだけどなぁ…。」あからさまにしょんぼりして拗ねて見せる上野。「ご、ごめんなさい…クスクス、そんな、そんなつもりじゃ…クスッ」なかなか笑いが止められずに謝りながらも肩を揺らしているまゆみ。「それ、ちゃんと謝ってないなぁ。」「謝ってるよ。でも…クスッ、上野くんが…クスクス」まゆみは目に涙まで浮かべて謝ってはいるがなかなか笑いが収まらない。
「俺、いつもは『格好いい人』で通ってるんだけどなぁ…」と笑うまゆみに背を向けて呟くと「知ってるよ。…クスクス、大学でも5本の指に入るって評判…クスッ、なんだもの…クスッ」「そうなんだ、俺も評判になってるんだ、知らなかったなぁ。」「本当よ。…クスッ」「それは光栄な事で。」上野はまゆみの方に向き直って笑いかける。落ち着きかけていたまゆみは上野の顔を見上げてまたさっきの上野を思い出して噴き出した。「だめ、もぉ、上野くんってば…クスッ、」俯いて笑いをこらえようとするがなかなか上手くいかなくて肩を揺らす。ふとその頭に暖かい重みを感じて、まゆみは驚いて顔をあげる。すると上野の笑顔が目の前の飛び込んできた。今までの人懐っこい笑顔ではなく、穏やかで易しい笑顔。その笑顔にまた驚いてまゆみはポカンと上野を見上げて固まってしまった。しばらくお互いに見つめあったまま二人だけ時間が止まってしまった。どのくらい時間が経っただろう。上野はまゆみの頭に置いた手でポンポンっと軽くまゆみの頭を叩くように撫で、クスッと笑う。まゆみははっと我に返り、俯いてしまう。
「よし、やっと止まった!」「えっ?」「笑いが…。」
まゆみはぷぅっと頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。