サイド蓮

ゆっくりその感触を味わっているとその光源が明るい栗色なのだという事が解った。柔らかい感触は髪の毛のそれで、俺が撫でているのは人の頭なのだと解る。その頭が動いて女の子の香が見えた。頬が涙で濡れて、目は真っ赤に腫れている。「ないてるの?」と聞けば「いいえ、泣いてないですよ?」と答える。その声はさっに必死に呼び掛けてくれていた声だ。またぶわっと溢れて頬を伝う水滴を親指で拭って「…なみだ」と呟く。「嬉しいんです。敦賀さんに会えて…。」「そう…なの?」君は俺に会えた事を喜んでくれるのかっ!「はい、凄く嬉しいです!」彼女は溢れる涙を拭おうともせず、俺の左手を両手で包み込むように握りしめて見上げてくる。「敦賀さん」「ん?」「ありがとう」「うん」「お帰りなさい」「…ただいま」
彼女はまた俺の膝に顔を埋めて涙を流す。俺は右手で髪を撫でてやる。まだ頭がはっきりしない感じだったがじっと彼女を見た。
不意に左肩に手が置かれ、見上げると社さんがいた。「さ、一度部屋に戻ってから仕事だぞ。」とにこやかに笑っている。「はい、解りました。」と答えると社さんは無言で頷いた。
「キョーコちゃん、大丈夫?」と声をかけながら顔をあげさせると彼女はまだ涙を流しながらも満面の笑みで応えてくる。この笑顔、可愛いよな。俺に促されて立ち上がろうとした彼女がよろめいたので咄嗟に支えて胸の中に抱え込む。「ご、ごめんなさいっ!」と慌てて離れようとする彼女をもう一度抱き直して伝える。「本当に、ありがとう。」
俺を闇から救ってくれたのはキョーコちゃん、君だ。俺は君を護りたいと思いながらも君に助けられてばかり。こんな情けない俺をどうか嫌いにならないで。君の傍にいる事が今の俺には何よりの幸せなんだ。だから、これからもずっと君の傍にいさせてほしい。俺に支えられて隣を並んで歩くキョーコちゃん。その横顔にこんな願い事をした。