サイド蓮

エレベーターホールで会ったキョーコちゃんはなんとなく俺と距離をとった。俺はその距離が辛くて気付かないふりをした。箱に乗るとキョーコちゃんはセバスチャンの背中に隠れる位置に立った。(俺、避けられてる?)そんな不安に俺は彼女を直視する事が出来ずにいた。箱を降りて朝食をとるカフェに入ると新開監督が既に座っていて、手をあげて俺を呼んだのでそのまま挨拶をして監督の隣に座った。一緒に来ていると思っていたキョーコちゃんはまだ入口近くにいて、貴島くんに声をかけられている。その事に驚きはしたがそのままこちらに来る二人を監督と笑顔で迎える。キョーコちゃんの肩に回っている貴島くんの手が気に入らない。キョーコちゃんは俺の正面に、貴島くんはその隣に座った。それもちょっと不服だ。隣のテーブルには社さん達マネージャーズが座った。
朝食のトレイが運ばれてきてキョーコちゃんはオレンジジュースを嬉しそうに眺めている。そんな仕草もすごく可愛くて見ないふりをしながら観察してしまう。
「京子ちゃんにオレンジジュースってよく似合うよね?」と貴島くんに言われ「そうですか?」キョーコちゃんはと返す。「うん、なんだか可愛いし健康的だよ。」と続く言葉にキョーコちゃんが頬を染める。苛々する。「子供っぽいって感じもしなくはないよね?」と苛立ちのまま言葉にしてしまった。「…えぇ、どうせまだお子様ですから。」とキョーコちゃんはむくれてしまった。そんな顔も可愛いよね。俺は気を良くして「そういう所がまだまだ子供なんだよね?」と追い討ちをかける。「敦賀さんって凄く意地悪ですね。貴島さん、助けて下さいよ。」と哀願するような表情でキョーコちゃんは貴島くんを見上げる。おいっ!その視線を受けるのは俺のはずだろっ!
貴島くんは図らずもその顔を直視してしまい、あまりの可愛さに赤面している。そして「大丈夫、いじめっ子からは俺が護ってあげるから頼っておくれよ。」とナイト気取りだ。『貴島っ!キョーコちゃんに気安く触るんじゃないっ!』と心の中で絶叫する。「はい、ありがとうございます!」と今度は満面のキューティーハニースマイルをキョーコちゃんが炸裂させる、貴島くんはその笑顔に射抜かれて固まってしまった。その笑顔も俺のものなんだよ。貴島っ!貴様が向けられていいものじゃないっ!
俺は独りよがりの怒りで体が冷たくなるのを感じた。