カーテンの隙間から朝の光が指している。

(もう朝なのね…)慣れないベッドで慣れないブランケットにくるまってキョーコは何度めかの寝返りを打つ。「うーんっ!」とのびをして勢いよく起き上がる。ベッドに腰かけて今まで寝ていたベッドを振り返ってもその狭くて白い空間には何もない。解っている事だがその事実がとても淋しい。ここ2ヶ月余り当たり前のように隣にあった温もりと香りが無いのがこれほど心許ないとは…。「しっかりしなさい、キョーコっ!」自分の頬をパシッと両手で挟むように叩いて立ち上がる。熱いシャワーを浴びてバスローブを纏い、再びベッドに腰かける。昨夜ベッドに潜り込む時に枕元に置いた携帯を睨む。その携帯は朝まで鳴る事はなかった。キョーコは一晩中携帯とにらめっこをしていた。ホテルの一室。薄い壁一枚を隔てた隣の部屋で眠る蓮に電話をしようと、何度も携帯を開いて電話帳で『敦賀さん』を表示しては発信ボタンを押せず、待ち受け画面に戻して閉じるという作業を何度も繰り返した。徐にベッドから起き上がって部屋のドアまで歩いていき、今すぐにでもこの部屋を出て隣の蓮の部屋に行ってしまおうかとも思ったが、それも出来なかった。結局外が明るくなり、カーテンの隙間から朝日が入ってくるまで眠れないまま携帯を睨み、部屋をウロウロするばかりだった。
「はぁ、情けないな、私…。」そんな言葉を漏らすとその言葉にまた自分が落ち込まされる。

着替えをすませ、身支度を整えた頃、見計らったかのように携帯が鳴る。一瞬蓮からの電話かと思い慌てて携帯を取り上げてディスプレイを確認すると残念な事にセバスチャンからのコールだった。キョーコはクスッと笑ってため息を一つ、そして大きく息を吸って通話ボタンを押した。
「おはようございます!」極力元気な声で挨拶をする。「京子様、おはようございます。お支度は出来ていますか?」「はい!」「それは何より。これから敦賀様達と一階のカフェで朝食でございます。ご一緒しますのでエレベーターホールまでおいでください。」「はい、解りました、すぐ伺いますね。」「はい、お願い致します。」
通話はそれで終わり、キョーコは小さなポーチを手に部屋を出た。部屋を出て少し歩くとエレベーターホールがある。そこにセバスチャンは立っていた。彼を目視して「おはようございます!」と駆け寄る。セバスチャンの近くまで行って初めて蓮と社の存在に気付いてキョーコは固まってしった。