その日は珍しくて二人とも昼下がりに仕事が終わり、私達は敦賀さんのお家の近くにある公園にきた。私は敦賀さんを木陰のベンチに座らせてから飲み物を買いに行くと少し離れた。本音は二人で過ごす時間が幸せ過ぎて怖くて、心を落ち着けようと思った事は敦賀さんには絶対に内緒。敦賀さんのブラックコーヒーと私の林檎ジュースを持って敦賀さんの待つ木陰に急いだ。怖いけどやっぱり少しでも多く一緒にいたい。
木陰で台本に目を落とす敦賀さんはその姿もやはり格好良くて、やっぱりズルいなぁと思ってしまう。敦賀さんを中心に視野を広げると空には綺麗な鱗雲。西日を受けて薄黄色に輝くそれはまるっ人魚の体のようにキラキラで、私は早く敦賀さんに見せたくて駆け出した。
「敦賀さん、敦賀さんっ!」と呼び掛けながら駆けていくと敦賀さんは私を見て立ち上がり、両手を広げて受け止めてくれる。このあったかい胸、安心出来る香が…大好き。敦賀さんを見上げて微笑むと敦賀さんは一瞬固まってゆっくり香が近づいてくる。『あ、キスされる』と思った瞬間咄嗟に持っていたコーヒーの缶を敦賀さんの口許に押し付けた。驚いて目を見開く彼に『大成功!』と笑うと少しムッとした顔になる。そんな顔も絵になるなんて反則だわ。押し付けた缶を奪いまたキスの態勢になる敦賀さんの胸をトントンと叩くと「ん?」と首を傾げるから「敦賀さん、上、上を見てください。」と言うと言うままに彼は上を向く。でも私の意図が解らずにもう一度首を傾げる敦賀さん。「上がどうしたの?」と問う敦賀さんに「…鱗雲」と答えるともう一度上を見て「本当だ、気づかなかったよ。綺麗だね?」と答えてくれる。「敦賀さんは背が高いから下を見てばっかりでこんな風景はなかなか見ないでしょ、勿体無い。」「私は…敦賀さんを見上げる度に空が見えるんです。お得でしょ?」なんて憎まれ口を言ってみる。すると「俺は下を見ているんじゃないよ。君を見ると自然に下を向いているだけさ。でも、君が俺の気づかない風景を教えてくれるから、俺はずっと新鮮な発見が出来るんだよ。上を見る事も横を見る事も君が教えてくれた。そしてこれからも教えてくれるよね?」と神々スマイル。私は凄く恥ずかしくて小さく「はい」としか言えなかった。耳朶まで真っ赤な私を敦賀さんはどう思っているかしら?
こんな夕方の一場面も敦賀さんと一緒ならば特別になる。そしてその全てが私の宝物。