食事会を終えて一行は今夜の宿泊先のホテルに戻った。役者達にはそれぞれシングルルームがあてがわれている。
キョーコは部屋に備え付けの椅子の上に鞄を置いてベッドに腰掛けた。なんとなく違和感を感じて戸惑う。考えてみれば事故の後一人で眠るのはこれが初めてだ。あまり深く考えるのはよくないと自分に言い聞かせて、気分転換にシャワーを浴びようとバスルームに向かって。
その頃蓮も自分に宛てられた部屋のベッドに座っていた。蓮は先程までの撮影を思い返していた。上野がみのるに言い放った言葉は蓮の心に響いていた。
『俺は遠慮はしない。行動を起こさずに言い訳したりもしない。何より自分の気持ちに嘘はつかない!』
これは上野がみのるに向けた台詞。なのに、貴島くんの気迫と全てを見透かすような鋭い視線に俺の心が軋んだ。その理由は全く解らないが、俺は失った記憶の中にちゃんと思い出して向き合わなければならない事があるのかもしれない。いや、多分あるのだろう。俺は記憶を失う事でその事から都合よく逃げた…、それを上野とみのるを通して貴島くんに言い当てられてしまったのではないか…。俺は卑怯な自分を見透かされたから動揺したのか…。俺が思い出さなければならない事が何なのか知りたい。だが、知るのは凄く怖い。俺の弱い心が全てを失う事を代償に封印した記憶。俺にとって重荷でしかない記憶…。だが、それを取り戻さなくては俺にとっての次の一歩はないのではないか…。何の手掛かりもないままどうやってそれにたどり着けばいい?社長や周りの人に聴いて教えられたとしてもそれは知識てあって記憶ではない。俺の中に刻まれたものは俺自身で再度獲得するしかないのだ。それが辛い作業であったとしても、今の、そしてこれからの俺にとって重要なタスクである事は、今俺が感じている焦燥と戸惑いが裏付けているように思う。
俺は事故の後凄く楽しい時間を過ごしている。記憶を無くしている事は今の俺にはそれほど重要ではなかった。社長に言われる通り『敦賀蓮』を演じればほとんど不自由を感じる事はない。事故以前の俺の立場は今の俺にはとても都合よくある。何よりキョーコちゃんと一緒に過ごす毎日は安心と幸せを俺に与えてくれる。今の俺はそれを素直に幸せと感じている。この穏やかな時間の前では俺が本当は金髪碧眼である事を隠している事すら些事に思えた。でも、それではいけないのだと上野の台詞で俺は頭を殴られるような衝撃を受けたのだ。
キョーコは部屋に備え付けの椅子の上に鞄を置いてベッドに腰掛けた。なんとなく違和感を感じて戸惑う。考えてみれば事故の後一人で眠るのはこれが初めてだ。あまり深く考えるのはよくないと自分に言い聞かせて、気分転換にシャワーを浴びようとバスルームに向かって。
その頃蓮も自分に宛てられた部屋のベッドに座っていた。蓮は先程までの撮影を思い返していた。上野がみのるに言い放った言葉は蓮の心に響いていた。
『俺は遠慮はしない。行動を起こさずに言い訳したりもしない。何より自分の気持ちに嘘はつかない!』
これは上野がみのるに向けた台詞。なのに、貴島くんの気迫と全てを見透かすような鋭い視線に俺の心が軋んだ。その理由は全く解らないが、俺は失った記憶の中にちゃんと思い出して向き合わなければならない事があるのかもしれない。いや、多分あるのだろう。俺は記憶を失う事でその事から都合よく逃げた…、それを上野とみのるを通して貴島くんに言い当てられてしまったのではないか…。俺は卑怯な自分を見透かされたから動揺したのか…。俺が思い出さなければならない事が何なのか知りたい。だが、知るのは凄く怖い。俺の弱い心が全てを失う事を代償に封印した記憶。俺にとって重荷でしかない記憶…。だが、それを取り戻さなくては俺にとっての次の一歩はないのではないか…。何の手掛かりもないままどうやってそれにたどり着けばいい?社長や周りの人に聴いて教えられたとしてもそれは知識てあって記憶ではない。俺の中に刻まれたものは俺自身で再度獲得するしかないのだ。それが辛い作業であったとしても、今の、そしてこれからの俺にとって重要なタスクである事は、今俺が感じている焦燥と戸惑いが裏付けているように思う。
俺は事故の後凄く楽しい時間を過ごしている。記憶を無くしている事は今の俺にはそれほど重要ではなかった。社長に言われる通り『敦賀蓮』を演じればほとんど不自由を感じる事はない。事故以前の俺の立場は今の俺にはとても都合よくある。何よりキョーコちゃんと一緒に過ごす毎日は安心と幸せを俺に与えてくれる。今の俺はそれを素直に幸せと感じている。この穏やかな時間の前では俺が本当は金髪碧眼である事を隠している事すら些事に思えた。でも、それではいけないのだと上野の台詞で俺は頭を殴られるような衝撃を受けたのだ。