撮影中****

改札を抜け街に出た。駅前はコジャレたお店がいくつか並び、少し歩くと閑静な住宅街にさしかかる。
上野は頭の後ろで手を組んでまゆみの少し前を歩く。手を下ろすとまゆみの肩を抱き寄せてしまいそうだし、まゆみの姿を視野に入れると理性をいくら集めても抗える自信がなかったからだ。
「静かな街だね。でも、何だか穏やかな雰囲気だ。」
「うん。一応住宅街なんだもの。でも、まだここは大通り沿いだから車も通るし明るいでしょ?」まゆみは上野に振り向きながら話を続ける。
「確かにね。みのるの家もこんな感じの街にありんだよ。あいつん家はでっかいから初めて行った時にはびっくりしたよ。」「そうなんだ。佐伯くんのお家は大きいんだ。凄いなぁ。」まゆみは上野を見上げて興味津々とばかりに視線で話の先を促す。が…
「きゃっ!」という小さな悲鳴とともにまゆみの体がバランスを失う。とっさに上野はまゆみの体を支え、抱き締める。
不用意に与えられた温もりと女の子特有の甘い香に上野は動けなくなる。
「…上野くん、ごめんなさい、ありがとう…。」
自分の体を支えたまま動かない上野の背中を軽く叩きながらまゆみが声をかけると、上野の体が小さく反応して、まゆみの体を解放する。
「ごめん、大丈夫?怪我はなかった?」
上野は罰悪そうな顔でまゆみに尋ねる。
「上野くんが支えてくれたから平気よ、ありがとう。」そう言って浮かべる笑顔はやはり上野の心を撃ち抜く。
「いや、大丈夫ならいい。っていうか、ちゃんと足元見なきゃダメじゃないか。まゆみちゃんは危なっかしいなぁ。」となんとか照れ隠し。「えへへへ」と恥ずかしそうに笑って小さな舌を出すまゆみ。
『だめだ、まゆみちゃん。君の仕草の一つひとつに俺は撃ち抜かれてしまう。俺をどうしたいんだい?』上野の心の叫びはまゆみに届くはずもない。
また歩き出す二人。上野はさっきと同じ位置を保っている。
後ろから聞き覚えのある車のクラクションの音が響いた。

「あれ?佐伯くん?」と振り返るまゆみの姿に上野は小さくため息をつく。車のクラクションの音だけでみのるだと解ってしまうのだと思うと、嫉妬するしかなかった。