1ゲーム終わって二人は近くのカフェのカウンターで並んで初ボウリングの反省会をしていた。スコア表を見れば、上野のスコアは186、まゆみは82と倍以上の差が開いていた。上野が上手なのは解ったし仕方ないが、まゆみは自分が沢山溝掃除をしてしまった事に不満が残る。印刷されたスコア表を見れば、上野のスコアは黒い三角がいくつかあり、まゆみのスコアには『G』が並ぶ。この意味はよく解らないが何だか悔しいまゆみ。
「また来ようね。」と笑いかける上野に「今度はもう少し上手く転がしたいわ。」と返す。「そういえば、佐伯くんはボウリングとかするのかしら?」と何気なく聞けば「どうかなぁ、あいつ、参加しても二次会までは付き合わないからね。それに、似合わないでしょ?」
確かにみのるがボウルを投げる姿は想像出来ない。なんでもそつなくこなすみのるの事だからさせれば様になるのだろうけれど、だれかとそんなふうに楽しむみのるがイメージ出来ない。
「あいつ、もっと楽しめばいいのになぁ。」「上野くんは楽しみすぎじゃない?」「いたっ!こりゃ一本とられたなぁ。」頭を書きながら苦笑いする上野。まゆみも笑い始める。まゆみの笑顔はとても可愛くて上野は目が離せなくなった。一頻り笑って落ち着いたまゆみはふと上野の視線に気づき、上野に向き直って「どうしたの?」と首をかしげる。「いや、今日はよく笑うなぁと思ってね。」「そうかしら?」と素っ気なく答えてまゆみは横を向いてしまった。が、そっぽをむいた頬が少し赤い。上野はそのはにかむ表情に思わず手を伸ばしかける。が、なけなしの理性を総動員させてテーブルの隅にあった伝票を掴む。
「そろそろ帰ろうか、送るよ。」

カフェを出ると空は夕焼けで紅色に染まっていた。二人で歩く駅への道にも会話と笑い声が途絶える事はなかった。