撮影中****

それから学内ではみのるとまゆみが一緒に居るところをちょくちょく見かけるようになった。上野がいる時もいない時もある。よく見かけるのは学内のカフェや図書室。元来真面目な二人はいつも資料や文献などとにらめっこしていた。二人は学部が違うから課題も全く違う。でも、二人でいると何故か効率よく進むのだ。二人で交わす会話はテンポ良く、何気ない話の内容は深い。そんなやり取りの中でみのるはまゆみがかなり博学である事を知る。そしてまゆみはみのるが想像よりロマンチストな事を知っていく。色々と話してみないと解らないものだとお互い感じ始めると、もっと知りたい、もっと伝えたいと思うようになっていった。だからお互いに沢山話をして、沢山の話を聴いた。何もかもが有意義で充実する。今までどこか他人事のように過ごしていた日々。それが突然自分のものとして手応えを感じる日々に変わった。
上野は思う。みのるはまゆみと出会って変な壁を一つ取り払った。警戒心が強く、人に気を許さないみのる。上野でさえ近寄れない雰囲気を持つ。だが、まゆみの前ではそのガードがかなり柔らかくなっている。まゆみがいない時も以前のような気温をぐっと下げてしまうような気配を出す事はなくなった。これはまゆみがみのるにかけた魔法なのだと確信している。あえてみのる本人には言わないが、みのるはまゆみに恋をしている。そしてまゆみもたぶんみのるを思っている。だが、何故だかどちらも一歩進もうとはしない。一緒にいる時間も増えた。お互いを一番理解する相手になった。だが、距離はそれ以上近づかない。傍目には大学一のベストカップルと囁かれることもあるというのに、本人達にはまったくその気がないのだ。二人は友達なのだ。上野を含めて仲のいい友達…。それ以上にはならないのだろうか?と上野が一人でイライラしている事など、当の本人達は気付きもしない。