撮影中****

「そういえば、二人でいるのって初めてじゃない?」まゆみは思った事をそのままみのるに問いかける。みのるは少し考える仕草の後「そうだね、初めてだ。」と返しながら、自分の奇行に気付く。
いつもみのるは上野といて、上野がまゆみを呼び止める。学食や広場で三人で雑談するのが殆どだ。大抵は上野が話題を提供し、二人はよく笑っていた。今、その上野は居ない。みのるは自分のあり得ない口数の多さに驚く。今まで沢山の『彼女達』と二人の時間を過ごしてきた。そのほぽ全員が『みのるくん、あのね』『みのるくん、これこれっ』と一方的に話をしてきた。みのるはただ笑顔で相槌を打つだけでよかった。『彼女達』の言う通りに動き、求められれば大抵の事はした。だが、今まで自分から何かアクションを起こす事は無かった。それがどうだ、大学の広場でまゆみを見つけて声をかけ、強引に車で連れ出した。昼食をとる店を選び、自分から色々と話をしている。自分の行動が信じられずに一人でプチパニックに陥ってしまった。

急に無口になったみのるを訝しんで、まゆみは声をかける。「佐伯くん、佐伯くん大丈夫?」「えっ?」「急に黙り込むから…。」「いや、あ、ごめんね。俺、こんなに話をするのって初めてかもって考えたら思考の小部屋に入っちゃってたみたいだね?」「ふふ、変なの(笑)」
そういって微笑んだまゆみの顔を酷く可愛く感じて、みのるは無表情で固まった。まゆみはその無表情を不機嫌と勘違いしてハッとする。「あの、そんな、悪気はないのよ。怒らせるつもりじゃないんだから…」
みのるはその言葉に我に帰り言い募る。「違うんだ、怒ってなんかないよ。ただ…」「ただ?」小首を傾げて上目遣いに見上げてくるまゆみの表情はやたらと艶めいて見えてしまい、みのるはまた言葉と表情をなくしてしまった。
「やっぱり怒ってる…」今度はしゅんとしょげて今にも泣き出しそうな顔になるまゆみにみのるは焦る。
「いや、大丈夫、怒ってないから(汗)」「ホントに?」「あぁ、本当に。」「ホントにホント?」「うん、ホントに本当。」「うん、ならいいわ。びっくりしたんだから…。」「ごめんよ、心配させちゃって…」「全くだわ。いつもとは別人みたく沢山話をしてくれたかと思えば急に黙り込むし。ちょっとからかったら怒るんだもの…。」「からかったの?」「あっ…」「おいっ!(笑)」
二人の時間は楽しく過ぎていく。