ドラマの撮影は順調だった。みのるに引っ張られて蓮が闇に落ちそうになるとキョーコが呼び戻し、まゆみに引っ張られてキョーコが立ち止まれば蓮がそっと背中を押す。そんな二人の様子を新開監督は微笑ましいと思いながら眺め、共演者やスタッフ達も二人の穏やかな雰囲気に癒されてしまうといった状況で、スタジオは和やかな空気で満たされていた。

「次回はとうとうキスシーンあるんだよな…」
社のそこ言葉にキョーコはピキっと固まる。蓮は聞こえないふりなのか、反応しない。

「や、社さん、いきなり何をいいだすんですかっ!(その事には触れないようにしてたのに)」とキョーコは社を睨む。社はいかにも楽しそうに笑いながら「ごめんごめん」とキョーコを宥めようとするがキョーコはそっぽを向いて拗ねてしまう。
「キョーコちゃん、悪かったよ。機嫌直してくれよぉ。そんな顔してたら折角の美人さんが台無しだよぉ…(汗)」
キョーコはまだそっぽを向いたままだ。
「蓮、助けてくれよ。俺、悪気はなかったんだってば…」「俺に言われても困りますよ。キョーコちゃんは純情さんですからねぇ。ほとぼりが覚めるまで離れておいた方がいいんじゃないですか?」「そんなぁ、蓮、お前冷たいぞっ。お兄ちゃんはそんな冷たい男に育てた覚えはありませんっ!」「クスっ、俺も社さんに育てられた覚えはないですよ(笑)」「おい蓮、お前まで怒ってんじゃないよ。悪かったってばさぁ…」目尻にうっすら涙を浮かべてしままった社に蓮は小さくため息をついた。
「キョーコちゃん、そろそろ許してあげたら?」「敦賀さんも楽しんでるんでしょっ!」キョーコはますます拗ねてしまう。
「困ったなぁ、俺のお姫様は今日はご機嫌斜めなようだ。社さん諦めるしかないですよ。」「おい蓮、頼むからさぁ…(泣)」
「京子様、そろそろお昼ご飯のお時間です。近くの洋食屋にハンバーグの美味しいお店がありますがいかがなされますか?」
「いきますっ!敦賀さん、社さんも行きますよね!」キョーコは満面の笑みで聞いてくる。ついさっきまでの不機嫌はどっかに飛んでいったようだ。「うん、行くよ。目玉焼きは乗るのかな?」蓮の返事にキョーコはご満悦だ。「キョーコちゃん、俺も行っていいの?」恐々聞く社にキョーコは「もちろんです。っていうか、来ないと絶好しますからねっ!」と笑って返す。キョーコのそういう所が大好きだと男共は思うのだった。