撮影中****

みのるはそれを無視してまゆみに話しかける。「取り込み中かな?」「そうでもないわよ(笑)」とにっこり笑うまゆみは割と頑張って平静を保っているようだ。「ただ、今は手元に本がないの。ゼミの部屋に行けばあるんだけど、急ぐ?」首を傾げて問いかけるまゆみは相当可愛くて、みのるだけでなく周りにいる男子学生達まで魅了してしまった。いち早く我に返ったみのるは呆然としている男子学生達の隙間からまゆみを引き出して「それじゃ、行こうか?」と歩き始める。「ありがとう」とにっこり笑ってみのるについて歩き出すまゆみ。その後ろでやっと現実を把握した男子学生達が「おいっ、待てよっ!」と二人を追いかけようとする。そこに上野が現れて彼らを塞き止める。「おいおい、音便じゃないなぁ。」
飄々とした表情のままだが目だけは笑っていない上野。男子学生達は一瞬怯む。
「女の子一人に男三人とはいただけないね。高橋さんはこの大学ではかなりの有名人だ。さっきのシーンは録画させてもらったから、この先彼女に某危害を加えるようなら公開させてもらうよ。周りは敵だらけになっちゃうかな(笑)」
男子学生達は顔を見合わせて黙り込む。上野はそのままみのる達を追いかけて走り去った。

「なんであんたがあそこに現れるわけ?」まゆみはみのるを上目遣いで睨み付ける。「私一人でもなんとでもなったのに…。」
みのるはやれやれといったジェスチャーで苦笑いをする。「余計なお世話だったかな?悪漢からお姫様を助けるナイト気取りだったんだけど…。」「面倒な事からさっさと解放されたから、それについてはお礼を言うわ、ありがとう。」
気だるげに、でもほんわり笑いかけるまゆみにみのるは無表情で固まってしまった。そこに上野が追いついてみのるの肩をガシッと掴む。「おいおい、置いてくなよ。」「あぁ、悪かったな。緊急事態だったから。」「そのようだな。高橋さん、怪我とかない?」「ええ、お節介なナイトのお陰でピンシャンしてるわ。上野くんもありがとう。」
みのるはまゆみが上野を知っている事に驚き、上野を睨む。
「みのる、そんな怖い顔するなよ。俺は意外と顔が広いんだよ。高橋さんが俺の名前を憶えてくれてるなんて光栄だけどね。」「上野くんも佐伯くんも有名人だからね。」

三人は笑い、じゃあまたと別れた。上野はみのるを冷やかしたりはしなかった。いや、冷やかせなかった。