サイド蓮

二人のやり取りが終わりそうにないので監督が声をかける。「さて、じゃぁ飯行くぞ。キョーコちゃんの大好きな目玉焼きの乗ったハンバーグが美味しい店を社君に探してもらったんだ。かなり前の話になるがほんのお礼のつもりだよ。しっかり食べろよ、キョーコちゃん。」
「はい、ハンバーグ!」と喜んで答えるキョーコちゃんは本当に幸せそうな顔をしている。本当に可愛いな。そんな事を思いながらキョーコちゃんを見ていたらその視線に気付いたキョーコちゃんがまた俯いてしまった。俺はまたキョーコちゃんの頭をポンポンと撫でてやる。瑠璃子ちゃんからは抗議の声は上がらなかった。
「君達悪いな。そういう事だからまた撮影で。あ、コイツらに対して謝罪は要らない。償いは演技でしてくれ。無理そうなら俺が帰るまでに消えてくれて構わないからな。」
凄く穏やかな、それでいてはっきりとした意思を伝えうる監督の言葉。君達はもう要らないと監督は言っている。キョーコちゃんは驚いて監督を見上げる。そして不安げな視線で俺を見上げてくる。本人は驚きと困惑の表情で見上げてくるのだが、俺にはその顔は可愛すぎて危険なんだよ、お嬢さん。ここが人前じゃなかったらキスくらいされても文句はいえないよ。
俺は彼女を安心させるためにもう一度頭をポンポンと撫でて軽く頷く。彼女は視線を下に落として俯いてしまった。そんな彼女に構わす、新開監督は歩き出す。瑠璃子ちゃんとマネージャーさん、社さん、セバスチャンの順に続く。俺は俯いているキョーコの耳元で「ハンバーグが逃げちゃうよ?」とわざとおどけた口調で囁く。すると彼女はハッとしてきぃっと俺を睨み付けてくる。いや、お嬢さん、その顔も危険なんだよね、実は。
俺は彼女の頭にあった手を背中に回して彼女に移動を促す。そして二人並んで歩き出す。最初、取り残される女優達を心配そうに振り向こうとしたが俺が止めた。キョーコちゃんは『なんで?』といった顔をしていたが、意思を持って前への歩みを促す俺の手に、再び前を向いて歩き出した。もう彼女は女優達を振り返ろうとはしなかった。