撮影中****

昼休み、学食の片隅でコーヒーを飲んでいるみのるに話しかける男がいた。「お前は法学部の明美ちゃんもふったんだってなぁ、勿体無い。」人のよさそうな笑顔で近付いてくるのは同じゼミでたまに話をする上野だ。みのるは「あぁ、まぁな。」と気のない返事をする。「なんでだよ、あの子可愛いじゃないか。何が不満なんだ?」「いや、不満とかじゃなくて俺はまだ特別な存在は作りたくないんだよ。」「なんだよそれ?せめて、泣かすなよ。それか泣かすなら俺が慰めてやれるタイミングを作った上でやってくれよ。」「それでお前がお持ち帰りか?」「恋愛なんて勢いとタイミングなんだよ。使えるチャンスは全部使うのが俺の心情だ。」みのるはあからさまにため息をついて呆れた表情を見せる。上野は怯まずに続ける。「合コンの切っ掛けくらいは作ってくれてもバチは当たらないだろ!」「まぁ、考えとくよ。」「全然やる気ないなぁ。付き合悪いと嫌われるぞっ。まぁお前の見てくれだとなかなか嫌ってくれる女の子もいないんだろうけどさ。」「そんなことないよ。」高橋まゆみと名乗った彼女は少なくとも好意的とは思えなかった。
上野はみのるの肩をポンと叩いて立ち去る。みのるは冷めかけたコーヒーを一口含んで昨日のまゆみの言葉を思い出す。
『がっかりだわ。ただのわがまま坊やじゃない。もっとしっかりしたビジョンがあって自分の境遇を否定しているんだと思ったのに残念ね。』
まゆみの、全てを見透かしたような言葉にみのるはかなり動揺した。立ち去ろうとするまゆみにこのまま見捨てられてしまうのではないかと、らしくない焦燥感を抱く。つい最近会ったばかりの学友になぜこんなに心をゆさぶられるのか、さっぱりわからないが、頭よりも体は正直でみのるの手はとっさにまゆみの腕を掴んで引き留めようとしていた。
「俺らしくないなぁ…」そう呟くとふと疑問が浮かぶ。『俺らしさって何?』こな疑問にはなかなか答えがだせそうにない。
みのるは小さなため息で考える事を諦めて席を立った。午後の講義はあまり頭に入ってこなかった。