サイドキョーコ
私が貰った役は高橋まゆみ。星華大学文学部3回生。なぜか学内で見かける度に女の子を泣かせている男性、佐伯みのるに意見するところから関わり始める。本当に女の子を泣かせるのが趣味なのかと思うほどに泣かせているが、ある日泣き崩れる女の子を置き去りに立ち去ろうとする佐伯みのるの辛そうな表情に『可哀想な人…』と思い始める。容姿端麗、頭脳明晰で父親は大きな会社のCEO。欲しいものを思いのままに手に入れられるはずの彼がどうしていつも人を遠ざけて物憂げにしているのかが気になり始める…。
「なぁんだ、親の七光りを毛嫌いするくせに自分自身の足場は何も固められずにいるのね?」とまゆみが放つ冷たい台詞にみのるとして反応した敦賀さん。それはとても辛そうな表情で、台詞を言ったまゆみの中私が悲しくなってしまうほどだ。
追い討ちをかけるようにまゆみは台詞を続ける。
「がっかりだわ。ただのわがまま坊やじゃない。もっとしっかりしたビジョンがあって自分の境遇を否定しているんだと思ったのに残念ね。」
背中を向けて立ち去ろうとするまゆみの腕を掴むみのるの手は予想以上に冷たくて内心ドキッとする。そして一瞬の切羽詰まった表情、それからばつの悪そうな顔に変わる。その手の冷たさが、一瞬の表情が、みのるのものではなくて敦賀さんの表情に思えて驚いた。でも、目の前にいるのはみのるで、演技中に一瞬でも役を手放すようなへまをする敦賀さんじゃない事は知っている。
カットの声がかかり、セットから降りようと敦賀さんを見上げたけれど、敦賀さんはまだ動こうとしない。視線を合わせようとさっきまでまゆみとして立っていた位置に戻って敦賀さんを見たけど、敦賀さんの目は私を映さずに見えないものを見ているかのように虚ろだ。敦賀さんの手に触れるとその手はさっきよりも冷たくて、僅かに震えていた。
「敦賀さん、敦賀、さん?敦賀さん!」
私の声に敦賀さんははっとして我に返った。そして私は彼の胸に閉じ込められた。
「お帰りなさい、敦賀さん。よかった…」自然に涙が溢れて頬を一筋零れて落ちた。
「ただいま、ありがとう。」
私をもう一度抱きしめる敦賀さんの手はもう冷たくはなくて、安心したら涙が止められなくなって敦賀さんを困らせてしまった。
私が貰った役は高橋まゆみ。星華大学文学部3回生。なぜか学内で見かける度に女の子を泣かせている男性、佐伯みのるに意見するところから関わり始める。本当に女の子を泣かせるのが趣味なのかと思うほどに泣かせているが、ある日泣き崩れる女の子を置き去りに立ち去ろうとする佐伯みのるの辛そうな表情に『可哀想な人…』と思い始める。容姿端麗、頭脳明晰で父親は大きな会社のCEO。欲しいものを思いのままに手に入れられるはずの彼がどうしていつも人を遠ざけて物憂げにしているのかが気になり始める…。
「なぁんだ、親の七光りを毛嫌いするくせに自分自身の足場は何も固められずにいるのね?」とまゆみが放つ冷たい台詞にみのるとして反応した敦賀さん。それはとても辛そうな表情で、台詞を言ったまゆみの中私が悲しくなってしまうほどだ。
追い討ちをかけるようにまゆみは台詞を続ける。
「がっかりだわ。ただのわがまま坊やじゃない。もっとしっかりしたビジョンがあって自分の境遇を否定しているんだと思ったのに残念ね。」
背中を向けて立ち去ろうとするまゆみの腕を掴むみのるの手は予想以上に冷たくて内心ドキッとする。そして一瞬の切羽詰まった表情、それからばつの悪そうな顔に変わる。その手の冷たさが、一瞬の表情が、みのるのものではなくて敦賀さんの表情に思えて驚いた。でも、目の前にいるのはみのるで、演技中に一瞬でも役を手放すようなへまをする敦賀さんじゃない事は知っている。
カットの声がかかり、セットから降りようと敦賀さんを見上げたけれど、敦賀さんはまだ動こうとしない。視線を合わせようとさっきまでまゆみとして立っていた位置に戻って敦賀さんを見たけど、敦賀さんの目は私を映さずに見えないものを見ているかのように虚ろだ。敦賀さんの手に触れるとその手はさっきよりも冷たくて、僅かに震えていた。
「敦賀さん、敦賀、さん?敦賀さん!」
私の声に敦賀さんははっとして我に返った。そして私は彼の胸に閉じ込められた。
「お帰りなさい、敦賀さん。よかった…」自然に涙が溢れて頬を一筋零れて落ちた。
「ただいま、ありがとう。」
私をもう一度抱きしめる敦賀さんの手はもう冷たくはなくて、安心したら涙が止められなくなって敦賀さんを困らせてしまった。