撮影中****

「告白を断るのは解るけど、毎回泣かせてるのはどうかと思うなぁ…。」まゆみ軽く言い放つ。「俺が泣かせてる訳じゃないよ。彼女達が勝手に泣くんだ。」「ふぅん、ならどうしてもあんたはそんなに泣きそうな顔をしてるの?」「えっ?」みのるは驚いてとっさに自分の顔に手を当てる。「なぁんてね(笑)」と茶化すまゆみをキッと睨んでも目の前の女には全く無力なようだ。みのるは小さくため息をついて「からかわないでくれ」とまゆみの横をすり抜けようとする。
「私、高橋まゆみ。文学部3回生よ。」
「えっ?」
「自己紹介まだだったでしょ?」
「あぁ、俺は佐伯「佐伯みのるくん、理学部3回生、ね。」…あぁ。なんで?」
「あんたみたいな有名人知らなきゃこの学校ではモグリよ(笑)」楽しそうに笑うまゆみにみのるは首を傾げる。
「俺が有名人?なんでだ?」
「容姿端麗、頭脳明晰、しかも今をときめく佐伯カンパニーのCEOの嫡男と言えば有名人でなくてなんなのか、私が聞きたいわよ。」
「そういう事か。俺には関係ない。」
「フフッ、噂通り淡白なのね(笑)」
「誰の噂だい?」
「まぁいいじゃない。でも、折角のステータス鼻にかけたり利用したりしてもいぃんじゃないの?」
「俺には関係ない。それに…」
「そうね、佐伯カンパニーのCEOはあんたじゃなくてあんたのお父さんの肩書きだからね。私もあんまり興味ないわ。じゃぁ、あんたはいったいなんなの?」
「お、俺?」
「なぁんだ、親の七光りを毛嫌いするくせに自分自身の足場は何も固められずにいるのね?」
「…っなっ!」
「がっかりだわ。ただのわがまま坊やじゃない。もっとしっかりしたビジョンがあって自分の境遇を否定しているんだと思ったのに残念ね。」まゆみは踵を返して来た道を戻ろうとあるき始める。
「…おいっ待てよ」とみのるは思わずまゆみの腕を掴んで引き留めていた。まゆみは『なぁに?』と言う表情で振り返るとコテンと首を傾げる。
「あ、いや、すまない…。痛かった…よな。」ばつが悪そうにそう言うと掴んだ腕を解放してみのるは俯いてしまった。
「あら、意外とフェミニストなのね。いつもは女の子を泣かせるばかりなのに?」
「…あれは…」俺を、俺自身を見ようともせず、外見やバックグラウンドに興味を持って近寄ってくる連中を淘汰するための振る舞いだとは言えなかった。みのるは目の前で首を傾げてこちらを見ているまゆみに見惚れてしまったから。