社はスタジオの出入口近くの壁にもたれて蓮とキョーコを眺めていた。そこにセバスチャンが近づき、話しかける。
「今の敦賀様にとって私は邪魔な存在でしかないのでしょうね。」
「えっ?」
「さっきだって本当は敦賀様が京子様を支えたかったと思います。でも、敦賀蓮はそれができない立場におられます。ですが私は敦賀様のしたい事を躊躇なくしてしまいます。それが仕事ですから…。」
「あぁ、そういう事ですか。確かに蓮は悔しがってると思いますよ。さっきも顔怖かったし…。」
「そうですか。しかし、私が旦那様から受けた命令は『京子を護れ』です。今の敦賀様には出来ない事でございます。」
「そうですね。俺だって無理です。キョーコちゃんは元々人を疑うという事を知らない子です。危なっかしくて仕方なかった。それが、記憶をなくしてからは小さな子供よりも無防備になってしまった。こんな敵ばかり多い業界で本当に彼女がやっていけるのか、俺だって正直不安で仕方がないです。だから…。」
「だから私が今、ここに居る訳です。」
「そうですね。蓮だって頭では解っているはずです。でも、あいつ…、キョーコちゃんに惚れてますからねぇ、今も昔も…。」
「それは京子様も同じかと思われます。以前は京子様はラブミー部でしたが、今はラブミー部の所属していた事もその理由もご存知ありません。だからこそご本人はいつも不安でナーバスになりがちです。が、敦賀様のお傍におられる時はとても穏やかで安定していらっしゃる。」
「蓮も同じですよ。あいつはキョーコちゃんがいなければただの顔だけヘタレ俳優に成り下がりますからね。」
マネージャー二人は苦笑い混じりにそれぞれが担当する訳者を批評している。傍目にはマネージャーとは思えないほど容姿の整った男性二人が爽やかに楽しそうに話しているとしか映らない。そこに居合わせる女優や女性スタッフは、件の男性のツーショットに心奪われる程だ。
急にざわつき出した周囲に戸惑いながら皆の視線を辿った先に自分達のマネージャーの姿を確認した蓮とキョーコはなるほどといった感じで納得した。そしてお互い目が合って一瞬ドキッとして眼を見開くがその次の瞬間、『もう無理』と言わんがばかりに肩を震わせ、クスクスと失笑する。社達に気を取られている周囲はそんな二人には気付かない。蓮は想う。悔しいが今はセバスチャンの存在自体がキョーコを護る大きな砦になっているのだと。蓮自身も護られているのだと。