蓮はキョーコを自分の胸に納めて尚、優しく頭を撫でていた。先ほどまで涙を拭っていた右手はキョーコの背中に回されてキョーコの身体を支えている。そのまま蓮が小さく囁く。「京子さんが謝る必要なんてないよ。京子だけが悪者な訳がないんだ。罪だというなら敦賀蓮も同罪だろ?一緒にいたんだ、一緒に出掛けて一緒に事故にあって、一緒に過去を失った。二人はずっと一緒だった。なのにどうして京子だけが悪くて敦賀蓮が被害者扱いなんだ?」
「でも、わた、私が分不相応に敦賀さんの傍にいたから…」
「そんなの誰が決めたんだい?周りがいうから?マスコミが騒ぐから?」
「…はい、やっぱり各がちが…」
「それは役の話だろう?今、俺達が演じている役の話だ。敦賀蓮と京子では立場に差があるのだろうけれど、今演じている俺達にそんな差なんてないはずだ。俺も君もまだ演技を始めたばかりの新人なんだろう?」
「でも、敦賀蓮は敦賀さんで京子は私で…」
「俺は俺、君は君だ。それ以上でも以下でもない。あんな心ないバッシングに君自身が傷つく必要なんてどこにもないんだよ。」蓮は出来るだけ力を入れずに胸の中にいるキョーコを包み込むように抱きしめてそう告げた。キョーコは蓮の胸に押し当てられた耳に届く蓮の鼓動と心地のいいテノールにさっきまで心をえぐられるような痛みが和らいでいくのを感じていた。キョーコの涙はまだ止まらなかった。そして、蓮の頬にも一筋滴が零れた事にキョーコは気づく由もなかった。

キョーコはひとしきり泣いた。泣き疲れてしゃくりあげながらも泣いた。連はそんなキョーコをずっと抱きしめていた。連は思った。『俺はこの子にこんな事しかしてあげられない。業界一いい男もこの子の前では形無しだ。』連は自分の非力さを呪った。そして心の中でそんな情けない自分を否定した。
そして今、自分の腕の中にある温かな存在を確かめるように、壊さないように、そっと優しく優しく抱きしめていた。
『俺が俺であるために、この温もりを守るために強くなれっ!』
情けない自分に何度も何度もそう言い聞かせる蓮がいた。