記者の質問に蓮は終始にこやかに答える。
記『今回、どうしてお二人で郊外にでられていたのですか?』
蓮『次のドラマの役作りで舞台になる横浜の街並みを見ておきたいと思いまして…』
記『お忍びで?』
蓮『今回は京子さんとダブル主演でしたし、役を早く掴みたくて…』
キョ『あの、私が敦賀さんにお願いして役作りを相談させていただいてたんです。今度頂いた役は今までとは違う難しい役柄でしたので。』
記『それを口実に敦賀さんに外出をねだった訳ですか?』
キョ『いえ、それは…』
記『そのためにスキャンダルの危険があるとは考えなかったんですか?』
キョ『いえ、あの…。そんなつもりは…』
記『そんなつもりじゃなくても現実問題として事故にあわれた訳ですし、迷惑をかけた事には変わりないでしょう?』
蓮『それは違いますね。どちらかというと俺が誘ったんですよ。』
記『そうなんですか?京子さんの役作りの為に敦賀さんがご協力されたんですか?』
蓮『はい、彼女の役作りというよりは俺達の役作りですから。よりいい作品を作りたい。その為の努力をしたいじゃないですか。』
記『敦賀さんは面倒見がいいですからね。京子さんはそんな敦賀さんに甘えた訳ですね?』
キョ『…はい。軽率な行…』蓮の右人差し指がキョーコの口元に触れる。まるで『しぃーっ』と子供にするように。驚いて蓮を振り仰ぐキョーコに蓮は優しく笑いかけて軽くウィンクを投げる。そして記者の方に向き直る。蓮は今しがたまでキョーコに向けていた笑顔とは全く違う笑顔を満面に称えていた。
蓮『俺達がとった行動は軽率だったと思います。が、俺も京子も純粋に役者として役作りに励みたい一心でした事です。結果的には事故に巻き込まれて皆さんにご心配ご迷惑をお掛けする事になってしまいましたが、この失敗を糧によりよい仕事をご覧いただけるように励みたいと考えています。』
またフラッシュの嵐が激しくなる。
蓮はすっと立ち上がり、続いてキョーコ、椹、松島も立ち上がった。
『『ご迷惑をおかけしました』』揃って深々と頭をさげ、それを合図に司会者が記者会見終了を告知する。スタッフに促され歩き始めようとした蓮は動けなくなっているキョーコの腰を引き寄せてエスコートする形で壇上から降りた。記者達はその蓮の流れるような仕草に見惚れていた。蓮が密かに怒りを抱いている事には気づかずに。