キョーコは困惑していた。今は隣に座って一緒にモニターを眺めている蓮が出演したバラエティ番組をいくつか見ている。モニターの中でその壮絶な魅力を惜しげなく振り撒き、観客のみならず他の出演者まで魅了しているのが隣にいる蓮なのだ。『私、こんな凄い人と一緒にいるんだわ…』そう思うといたたまれない。番組の司会者も常に蓮を誉めちぎる。そんな司会者に蓮が苦笑を漏らすだけでスタジオに割れんばかりの歓声が起きる。モニターから伝わってくる『敦賀蓮の凄さ』にキョーコは気後れし、ソファの上でどんどん小さく身を縮める。

蓮が気付いた時には、キョーコは怯える仔リスのように小さくなってかすかに震えていた。蓮が自然な仕草でキョーコの頭に手を置くと、ビクっとキョーコの身体が大きく跳ねてまた縮こまる。それでも蓮にゆっくり頭を撫でられる感触にキョーコは小さく息を吐き出した。少しの間上手く息も出来ずにいた事に気づく。
ずっと頭を撫でてくれる蓮の手が嬉しくてキョーコは蓮を見上げる。すると、蓮の神々しいまでの笑顔が降りてくる。キョーコは今まで怯えて縮こまっていたのも忘れてその笑顔に見惚れてしまう。
「どうした、観ないの?」
春の日差しのような笑顔、そよ風のような声…。目の前に敦賀蓮がいる。キョーコはそう感じた。
「…いえ、観ます…」凄く悔しい。キョーコ自信はまだ京子を何もない。掴めていないのに、隣に座る蓮はもう敦賀蓮としてここにいる。キョーコは取り残された気分になりまた俯いてしまった。
蓮はそんなキョーコの頭をずっと優しく撫でている。キョーコはそんな蓮の余裕が悔しかった。そして、自分も早く京子を掴もうと闘志を燃やしたのだった。