サイドキョーコ

ノックの音に開けた扉の前に立つ敦賀さんを見て『格好いい』と思ってしまった。紺のカジュアルスラックスに薄い水色のシャツ。上から二つボタンを外して襟元を寛げている。その上にスラックスと同色の七分袖のジャケットを着ている。カジュアルであっさりしているのに敦賀さんが着るだけでゴージャスに見えてしまう。『やっぱりこの人はずるいわ』と心の中で毒づいてみても、目の前の敦賀さんに速くなった鼓動は治まりそうにない。

「用意出来たかな?」と聞かれて「はい」と答えた。そして「バッグを取ってきます。」と部屋の奥に逃げ込んだ。早く落ち着きなさい、私っ!
なのに背中にずっと敦賀さんの視線を感じる。そんなに見ないでほしいと思うのに、ずっと見ていてほしいような気もする。でも、恥ずかしい。苦し紛れに「敦賀さん、どうかしましたか?」と聞いてみる。すると予想通り「いや、なんでもないよ。」とあっさり返されちゃった。なんとなく悔しいから「やっぱり子供っぽいなぁとか思ってらしたんじゃないですか?」とちょっと拗ねて唇を尖らせてそっぽを向いちゃった。「そういう所はやっぱり子供だね?」ととかいいながら私の頬を突っつくの。もぉっ、どっちが子供なのよっ!「知りませんっ!」って今度は怒ってみた。でも、駄目っ!顔が赤くなってるのがを自分でも解っちゃう。また何か言われちゃうっ…ってあれ?何も言われない。もしかして気づいてない…のかな?

「さて、ディナーに参りましょうか、お嬢さん?」と私の前に差し出された腕に自分の腕を絡めてはみたけど、すごく緊張してしまう。このドキドキが敦賀さんにばれちゃったらどうしようっ!

「ちょっと待って?」と言っていきなり足を止めた敦賀さん。私は驚いて敦賀さんを見上げたけど、つは何も言わずに私の腕をやんわりと解いてしまった。私、何か粗相をしましたか?
どうしていあのか解らずにそのまま見上げていると、「俺、この方が歩きやすいんだ。」と私の手を取り、指に指を絡めて握り直されてしまった。
そのまま歩き出す敦賀さんに引っ張られて、慌てて後ろを付いていく。そして敦賀さんの半歩後ろを歩く。この場所、凄く落ち着くわ。たまに敦賀さんの肩が触れるのが気持ちいい。それに、敦賀さんは私の足の速さに併せて歩いてくれる。母屋までのプチデートみたいで、やっぱり恥ずかしい。そんな私の頬に当たる風が少しひんやりして火照った身体に気持ちいい。