ブランケットにくるまって眠るキョーコを抱き上げ、蓮は自分の寝室へと運ぶ。最初はキョーコの部屋に運ぼうかと思ったが、女性の部屋に無断で入るのも憚られ、自分の部屋に連れてきた。昨夜もここで一緒に寝たのだからさすがにキョーコもパニックを起こしたりはしないだろうと蓮は考えた。それに、また今朝のような状態にキョーコが陥ったら今度はちゃんと対処できる自信もあった。何より、もうそんな辛い想いはさせないと強く思った。
キョーコの身体を抱き上げて歩き始めるとキョーコの眉間に皺ができた。もう起きてしまうのかと一瞬立ち止まったがキョーコは蓮の胸元に顔を擦り寄せて嬉しそうに笑ってまた深い眠りに落ちていったようだ。部屋に着き、ベッドにゆっくりとキョーコを横たえて寝顔を確認する。気持ちよさげに眠るキョーコはまさしく少女だ。キョーコはブランケットにくるまっていたが、夕方になり気温が下がってきているので身体を冷やさないようにもう一枚、蓮のベッド用のブランケットをかける。
キョーコが目覚めるまで借りてきたばかりの資料を読もうかとキョーコから離れかけるとくいっと服を引っ張られる感じがした。振り替えればいつのまにかこちらを向いて眠っているキョーコに服の裾をしっかり捕まれている。蓮はベッドから離れるのを諦めてベッドに座り、栗色の髪を優しく撫で始めた。キョーコはその感触がくすぐったいのか少し身をよじる。蓮は驚いて手を止めていると今度はさっきより強い力で引っ張られた。蓮はキョーコの横に寝転がり、向かい合わせの格好でまた栗色の髪を撫でてやる。するとキョーコは満足そうに笑って、身体を丸めながら蓮の胸元辺りにすっぽり収まってしまった。
「本当に無防備だな。他の男の前では絶対にしないでくれよ」

蓮はキョーコの髪を撫でながら目を閉じて今日の事を考える。今日は散々な1日だった。すごく疲れてしまって上手く思考も動かない。そんな1日だった。なんとなく1日の終わりにこうしてキョーコを感じられる事がすごく特別で大切な事だと思う。そしてこの娘を傷つける何もかもから守らなければならないと、この娘の笑顔に会うために頑張るのだと蓮は思う。
耳に届くキョーコの小さな息づかいとすぐ傍にある体温を味わいながら目を閉じているとそのまま蓮も眠ってしまった。