キョーコはぼんやり目覚めた。この数日、自分が何かにつけてよく眠っているような気がする。ゆっくり目を開けると視界を塞ぐ大きな物がある。その大きな物の正体を確かめるために目線を上げると蓮の端整な顔に出会う。
『私、起きるたびにこの綺麗な顔を見てる気がする。』などと思いながら今の状況を確認する。目の前には蓮がいて、周りを見ればここは今朝起きた蓮の部屋で、…あれ?
『確かモー子さんがゲストハウスまで一緒に来てくれていて、お茶を飲みながら色々聞かれた。なんで倒れちゃったのかって聞かれても解らないから敦賀さんとしていた話を説明した。そしたらまた悲しくなって涙が止まらなくなって…。モー子さんが傍に居て慰めてくれていて…』キョーコははっとしてやっと頭がはっきりしてきた。『モー子さんはどうしたんだろう?』
不安になった。泣いてばかりの自分に呆れてかえっしまったんじゃないかと思うとまた涙が目に溜まってくる。
「京子さん、起きた?」
その声に驚いて顔を上げると涙も引っ込んだ。
「おはよう。よく眠れた?」
耳に心地好い声がなんだかくすぐったい。
「はい、おはようございます。」そう言ったら俯いてしまった。気恥ずかしくて蓮の顔をしっかり見る事が出来ずにいる。

蓮はキョーコに俯かれて顔を見られない事に寂しくなってキョーコの頭に手をやり、髪の毛の感触を楽しむ。
「琴南さんは夕方から収録があるからって帰ったよ。俺が戻るまでリビングに居てくれたんだ。」
「そうなんですか、後でちゃんと謝らないと…。」
「そこは謝る所じゃないんじゃないかな?多分『ありがとう』って言った方が彼女も喜ぶと思うけど?」
「いえ、モー子さんに迷惑かけちゃいましたし…」
「友達を気遣うのは普通の事だよ。迷惑かもなんて琴南さんに失礼だよ。きっと彼女に怒られちゃうよ。彼女だって大人だ。無理な時は手を出さない。近しいからこそ無理は無理、駄目は駄目って言えるんじゃないのかな?それが『親友』なんじゃないかなぁ?」
「『親友』…、親友ですか、私とモー子さんが?」
「違うの?」
「んと、よく解りません。でも、モー子さんが私の事をそんなふうに思ってくれてるなら、凄く嬉しい。」朝露を浴びながら綻ぶ花のようにふわぁっと笑顔を浮かべるキョーコ。その笑顔の破壊力はこれまでで最大級だった。