サイド奏江

敦賀さんは勿論、後ろで傍観を決め込んでいた社さんも、キョーコも驚いた。もぉっ!キョーコ、あんたはなんで驚いてんのよっ!そのあんたの手をいつまでも握っているへたれのせいであんたは倒れたんでしょうがっ!もぉっ!

「もぉっ!この子をこんな仕打ちをする男の人の近くに置いおける訳がないでしょ!もぉっ!」

「…そんな」
そんな小さな声で何かを言ったところで私には聞こえないわよ。敦賀さん、あなたの言葉に貸す耳は持ち合わせておりません、おあいにく様。
ずっと傍観を決め込もうとしていたずるい社さんも、担当俳優と同罪よっ。
「社さんもこの顔だけへたれ俳優のマネージャーなんですから、ちゃんと管理してくださいよ、もぉっ!」

キッと睨んだ私に一瞬『えっ、俺!?』と言いたげに顔をしたけど、「ごめんよ、蓮には俺からも厳しく叱るから、本当にごめんよ。」と申し訳なさそうな仕草で謝る。この人はやっぱり大人なんだと改めて思う。だからといって私が引き下がる訳には行かない。
「もぉ、ダメです。事故からまだ2日しかたっていないのにこんな事になってるんです。これからが心配です。今回は社長が手際よく対処してくれたからいいようなものの、この顔だけへたれ俳優だけだと何もできないざゃないですかっ!」
ふんっ!どぉよ、顔だけへたれ俳優さん。ぐうの音もでないでしょう?

「あの、モー子さん?」横から声がかかる。私はキョーコの方に向き直って言い募る。「なにゆもぉっ!あんたなんか文句あるの?」
私の威嚇に怯えてブンブン首を横に振るキョーコに少し安心を覚える。

「この治療が終わったら私がこの子を連れて帰ります!」
目の前の男性二人は半ば諦めた顔でうなだれている。反論の声は違う方向から出された。
「それは勘弁してくれないかな、琴南くん」

そうか、社長は敦賀さんの味方だものね。私が何を言っても状況は変わらないのか。社長の声には逆らえない。これが鶴の一声っていうやつなのね。私は素直に負けを認めた。
「解りました、社長のご意見に従います。」

それより今はもっと気になる事がある。早くこの子に確かめなきゃ!