サイド奏江

もぉっ!社さんから連絡貰った時には寿命が縮む想いだったわよ。もぉっ!過呼吸症候群だなんて、中高生でもないのになんでそんなに不安定なのよ、あの子はっ、もぉっ!
迎えに来てくれた社さんにタクシーの中で色々聞こうかとも思ってけど、どうせあの顔だけへたれ俳優があの子に何かしたに決まってるわ。記憶を無くして前より更に温厚になったと思ったのに、あの子を苛める事は忘れてなかったのねっ!
蹴りの二・三発ぐらいじゃ済まさないかもよっ!

社長邸に着いたタクシーから飛び降りて療養室まで一目散に走った。私はなんでこんなにムキになってるんだろうと頭の隅っこで疑問に思ったけど、この際面倒な事は後回しよ。
邪念を振り払うように思いっきり勢いよく扉を開けた。
白い部屋の奥まったところにあるベッドであの子はびっくりして身体を起こした。なぜその傍らに顔だけへたれ俳優がいるのよ、もぉっ!
いつもなら私を見つけたら一も二もなく抱きつきにくるのに驚いたまま固まったあの子を見て余計にイライラしてしまう。そうか、この子は私の親友第一号を名乗っている事も忘れてしまってるんだわ。私の胸の中にポッカリ穴が空いたような気がして、一瞬戦意喪失しかけたけど、あの子の右手と繋がれている顔だけへたれ俳優の手を見て戦意倍増だわっ!

あんたたちっ!なんでカップル繋ぎなのよっ!
キョーコ、あんたこの顔だけへたれ俳優に酷い事をされたか言われたかで過呼吸起こして倒れたんでしょうがっ!もぉっ!

腹立ち紛れにずかずか部屋の奥まで突き進む。「おはよう…。」なんてのんきに挨拶なんかしてくるからとりあえずは返して、これからが本番よっもぉっ!

「もぉっ!敦賀さんっ!あなたがいながらなんでこの子が過呼吸なんて起こすような事になるんですかっ!もぉっ!」
まずはジャブよ。さぁ、反論してみなさいっ!
「…、すまない、琴南さん」
なにっ?いきなり白旗なわけっ?
「もぉっ!すまないで済んだら病院も警察も要らないんですよ、もぉっ!」
ちゃんと反論しなさいよ、このへたれっ!
「うん、本当にすまないと思っているよ。」
下向いて反省のポーズなんてしても私は騙されないわっ!
それから何を聞いても曖昧にしか答えないへたれに我慢出来なくなって私は言い放った。
「解りました、もういいです。これ以上この子をあなたの近くには置いておけません!」