大切なもの （59）

「もぉっ！この子をこんな仕打ちをする男の人の近くに置いておける訳がないでしょっ！もぉっ！」
「…そんな」蓮は反論も出来ないまま、真っ白になりそうな頭で必死に奏江を宥める言葉を探す。
「もぉっ！社さんもこの顔だけへたれ俳優のマネージャーなんですから、ちゃんと管理してくださいよ、もぉっ！」
「ごめんよ、琴南さん。蓮には俺からも厳しく叱るから。本当にごめんよ。」
社にしてみれば完全なとばっちりだ。でも、自分が謝って少しでも状況が改善するならばと社も尽力する。

「もぉ、ダメですっ！事故からまだ2日しかたっていないのにこんな事になってるんです。これからが心配です。今回は社長が手際よく対処してくれたからいいようなものの、この顔だけへたれ俳優だけだと何もできないじゃないですかっ！」
確かにその通りだ。ｷｮｰｺが倒れた時、蓮は自分の事だけで精一杯でｷｮｰｺの変化に気づけなかった。あのときローリーがいなかったら今、ｷｮｰｺはどうなっていただろうかと、今更ながら蓮は怖くなる。

「あの、モー子さん？」
「なによっもぉっ！あんたなんか文句あるの？」
勢いよく向けられた奏江の般若のような顔にｷｮｰｺは怖くて首を横にブンブン振った。

「この治療が終わったら私がこの子を連れて帰ります！」

「それは勘弁してくれないかな、琴南くん」

開け放たれたままの扉の前にローリーがたっていた。